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社会的課題解決のための数理モデル

2021年8月30日

投稿者: 北垣和彦

数理モデルとシュミレーション、そしてデジタルツイン

コンピュータの処理能力向上とデバイスのコモデティ化がもたらす社会変革の過去記事でも説明しました通り、今日においてはコンピューターや人工知能の処理能力向上により、社会現象を数式で表現して課題解決に結び付ける「数理モデル」の研究が進展しています。

数式でモデリングする訳ですから、パラメーターを入れ替えれば、色々な条件でシュミレーションできますので、便利で有用性が高いと言えます。

コンピュータの性能向上により、かなり複雑な計算でも、高速に処理できるようになり、シミュレーション結果がかなり現実に近づける事ができるようになっています。

その結果、生まれてきた最近の概念にデジタルツインがあります。

デジタルツインとは、現実空間から取得した情報やデータをもとに、デジタル空間にコピー、すなわちツインを再現する技術の事です。

応用範囲としては、ビルや工場、工場の中では製造ラインそのもの、もっと発展させて都市全体等。

デジタル空間に現実空間のツインを再現することによって、事前のシミュレーション・分析・最適化を行い、それを現実空間にフィードバックします。

GEは航空機用のジェットエンジンを製造していますが、ジェットエンジンは販売せずに、レンタルしています。

そしてジェットエンジンのデジタルツインを構築して、現実世界のジェットエンジンの稼働情報をフィードバックして、飛行機会社にメンテナンスに関する情報提供をしたり、最適な飛行ルートのアドバイスを行ったりしています。

従来から、飛行機を設計するときには空気の動きを分析し、機体の形・大きさ、翼の形・大きさ・角度・形に伴う空気の動きをシミュレーションします。それにより、開発期間やコストを削減してきましたが、更にジェットエンジンのデジタルツイン化により、飛行機の経済的な運航にまで、シミュレーション技術が及んでいます。

今回は飛行機の事例を説明しましたが、数理モデルを用いたシミュレーション技術はあらゆる分野での応用が期待されています。

 

数理モデルの事例

グーテンベルグ・リヒター則
ドイツの地震学者ベノー・グーテンベルグがアメリカ合衆国の地震学者チャールズ・リヒターとともに発見した地震の発生頻度と規模の関係を表す法則であり、地震の発生規模と回数を推定します。

:マグネチュード

Nのマグニチュードの地震

としますと

logN=a-bM

という数式が成り立ちます。

この数式が意味するところは、マグニチュードが1大きいと発生頻度は およそ1/10になるという事です。

グーテンベルグ・リヒター則は経験則です。

 

セル・オートマトン

格子状のセルとシンプルな規則による離散な数理モデルです。

シンプルなので、非常に応用分野の広い数理モデルとなっています。

セル・オートマンの有名な事例としては砂山くずしモデルがあります。

砂山くずしのモデルは、マス目の広がっている空間にブロックが落ちてきて積まれていくモデルです。

空間の中からセルに相当する1つのマス目が選ばれます。

そして、そこに新たな1つのブロックが積まれます。

既存のブロックに新たなブロックが落下すると、既存のブロックの上に新たなブロックが積み上げられていきます。

各マス目には臨界値があり、4と設定されているので、1つのマス目に4つのブロックが積まれると、その4つのブロックは、周囲の4つのマス目に飛散するモデルになっています。

拡散した結果、拡散先のマス目も臨界値である4に達すると、そのマス目から又、飛散が開始します。

そのマス目にすでに3つのブロックが積まれていた場合、マス目にあるブロックは4つになり、そこからさらに飛散が起こります。

まさしく雪崩現象を表すモデルですね。

砂くずれモデルのように有限種類の状態を持つセルによってセル・オートマトンは構成されます。

又、その状態変化は離散的な時間の変化となり、時刻 t においてのセルの状態、および近傍のセルの内部状態によって、次の時刻t+1 、すなわち新たなジェネレーションでの各セルの状態が決定される事になります。

以上、経験値に基づく、数式による数理モデルであるグーテンベルグ・リヒター則と砂山くずれモデルをはじめとしたシミュレーションの基本となる数理モデルであるオート・マトンについて概要を説明しましたが、いずれにしても社会的課題解決に向け、このような数理モデルを使いこなせる人材育成が重要だと考えます。

 

数理モデルによる社会的課題解決のための教育

数理モデルの原点は変化の観察です。

有名な事例がニュートンによる引力の発見と運動方程式の構築です。

変化は微分値で表されるわけですから、数理モデルは、基本的には微分方程式の解に当たる関数になります。

現在では、ITの進化により、高度な数理モデルが誰でも活用できる時代になってきています。

IT人材の不足が叫ばれていますが、IT教育の基本になるものは、数学をはじめとしたリベラルアーツ教育であり、リベラルアーツ教育の提供が、大学の重要なミッションの一つと考えます。

 

引用:経済産業省「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査」(2016年6月)

大阪工業大学

研究支援社会連携センター

シニアURA

北垣和彦

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