樹脂製マイクロ流体デバイスの量産に向けた拡散接合装置の開発

従来のマイクロ流体デバイスで主に用いられてきたポリジメチルシロキサン(PDMS)は、各種タンパク質の吸着や、高いガス透過性などから必ずしも理想的なマイクロ流体デバイス用材料とは言い難いものでした。また、PDMS製マイクロ流体デバイスの製造工程は手作業が多く、量産には不向きで、高コストなデバイスになりがちでした。

そこで当研究室では、高分子樹脂製マイクロ流体デバイスへの移行を目指し、拡散接合技術を用いたマイクロ流体デバイス量産技術の確立を目指しています。拡散接合装置の試作機の開発を進めており、500 μmまでの流路を閉塞することなく接合することに成功しています。今後も、装置の改良や接合条件、デバイス設計の最適化を進め、各種マイクロ流体デバイスの開発に貢献するとともに、様々な応用研究を模索していきたいと思います。

固相拡散接合の原理は極めて単純です。右の図に示すとおり、真空あるいは不活性ガス雰囲気下で接合材同士を加圧しつつ、ガラス転移温度付近まで加熱することで、分子運動を促進し一体化します。原理的には、高分子樹脂以外にもガラスや金属への応用も可能であり、多種多様な材料に適応可能です。また、プラズマボンディングの様に、必ずしも平滑面である必要はなく、当研究室では切削加工後のPMMA平板や3Dプリンタで作製したABS平板同士の接合にも成功しています。界面が一体化するという性質上、接合材本来の高い光透過性を維持可能なことも特長です。

一方で、接合材の変形を最小限に抑制するためには、真空中で正確な温度制御と加圧制御を行う必要があります。さらに、温度・圧力条件なども接合の品質に大きな影響を与えます。マイクロ流体デバイスの設計においても最適化の余地は多く残されており、より高品質な接合の実現に向けて継続的に研究を実施しています。


副次的な利点として、切削痕などの微小な凹凸が存在しても問題なく接合でき、接合後は界面の一体化により接合材本来の透明度が復活することが挙げられます。このような特徴から、特に光学観察などを行うデバイスなどへの応用を期待しています。