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研究テーマ
人文学
学科の分類
情報科学部情報メディア学科

英文和訳で現れる逆接表現

情報科学部

情報メディア学科

英語学・語法研究室

田岡育恵 教授

逆接表現日英語対照翻訳

翻訳小説を見れば、原文の英語には、but やhoweverのような逆接表現がないのに、和訳には、「しかし」や「けれども」のような逆接表現が補われていることが多い。何故、そのようなことが起こるのだろうか。Agatha Christieの "Hercule Poirot's Christmas"とその翻訳『ポワロのクリスマス』(村上啓夫訳、川副智子訳)からの例で観察すれば、含意の否認や対比を明確にするため、発言を婉曲にするため、ということが考えられる。また、逆接表現を用いたがために、読み手を逆接の認識に導くということも起こる。

前件の含意の後件での否認、前件と後件の対照性を明示

(1) ‘Because you, too, wish to get away from here?’ ‘Yes.’ ‘And the big, handsome policeman will not let you go?’「それで、あなたも、ここから逃げ出したいって、いうわけね?」「そうです」「でも、あの大きなハンサムな警官が、あなたを行かせないんでしょう?」(『ポワロのクリスマス』村上啓夫訳)

  前件「ここから逃げ出したい」が含意する「逃げ出せる可能性がある」と後件「警官がそうはさせない」の間で逆接関係が認められ、原文ではandが用いられているが、「でも」と訳されている。逆接表現がなくても、解釈に支障は来たさないが、「そして」と訳せば、後件が唐突に出てくることになる。「でも」は、読み手の解釈を容易にするために用いられている。(1)の逆接表現は、たとえなくても解釈に支障は来たさないが、(2)は、逆接表現で訳さないわけにはいかない例である。

(2) Mr Lee never cared for Mr Alfred much. A pity, when Mr Alfred always seemed to devote to his father. リー氏は、アルフレッド氏のことを、あまりかまわなかった。お気の毒に―アルフレッド氏はいつもお父さまに対してあんなに献身的であるのに……(ibid.)

  前件と後件は、「父親はアルフレッド氏を気づかってやらない」と「アルフレッド氏は父親に誠心誠意尽くしている」という対照的な状況を示している。原文ではwhenだが、このwhenを「とき」と訳すと不自然な日本語になる(図1)。

図1 逆接関係がwhenの意味を「逆接」に転換

発言の断定性を緩和

(3) I can understand, of course, how he feltー 父がそのとき何を感じたのかーもちろん私には分かりますけれど―(ibid.)『新明解国語辞典(第8版)』によれば、終助詞「けれど(も)」には、後を言いさしにして婉曲に表す用法がある。「けれども」なしで「父がそのとき何を感じたのか、私には分かります」では、発言の断定性が強くなる。原文がピリオドではなくダッシュで終わっている、その言い淀む感じを、つまり、発言したが、そう言ってよかったのかどうかというためらいを「けれども」で表したと考えられる(図2)。

図2 「けれど」が喚起する逆接関係

逆接表現が導く逆接関係

図3 「が」が喚起する逆接関係

(4) She didn’t look guilty-nothing of that kind-but she did set about it rather-well, quickly and quietly-if you know what I mean. 彼女は罪を犯しているというふうには見えませんでしたよ―そんなふうには少しも見えませんでした―むしろ彼女は―すばやくではあったが、落ちついて―それをやりました―わたしの言う意味はおわかりでしょうね?(ibid.)/やましいことがあるようには見えませんでした―そんなふうにはまったく。むしろ彼女は仕事をしたんですよ―そう、すばやく、静かに。この意味がおわかりならば(『ポワロのクリスマス』川副智子訳)

村上訳のように、逆接表現が用いられれば、後の「落ち着いて」は前の「素早い」の逆のこととして示されるので、「素早い」には「落ちついていない、慌てている」というようなことが含意されていることが意識され、それがそうではなかったということになる。川副訳のように、逆接表現がなければ、「すばやく」と「静かに」を逆と捉えるかどうかは読み手に委ねられる。この後に「この意味がおわかりならば」と続くので、そこで読み手は「すばやく」と「静かに」に込められた逆接性に気づくことになるが、「すばやく、静かに」だけでは、様態の並置に過ぎない(図3)。

論文

「英文和訳における逆接表現の出現―『ポワロのクリスマス』を事例としてー」(2025)田岡育恵『大阪工業大学紀要』69(2)p.11-18.

研究者INFO: 情報科学部 情報メディア学科 英語学・語法研究室 田岡育恵 教授

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奥野 弘嗣

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江口 翔一

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