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研究テーマ
人文学
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情報科学部情報メディア学科

発話理解の奥深さ 分かるようで分からないことば

情報科学部

情報メディア学科

英語学・語用論

黒川尚彦 准教授

私たちはことばをどのように理解しているのか。家に招いた客人に「暑いね」と言われたとしよう。「そうだね」と同意するだけでもよいが、たいてい「冷たいもの飲む?」や「エアコンつけようか?」などと返答するだろう。これは、相手が発した発話を「この部屋は暑い」と理解し、「冷たいものを飲む」ことや「エアコンで涼しくしてほしい」という要望であることを推論するからである。発話という断片的な情報から、私たちはどのように相手の真意をつかむのだろうか。

ことばの理解の前提として、その語(句)を知っているかどうかがある。ふつう語(句)を知っていれば、それは理解できるだろう。たとえば、Let’s eat steak.(ステーキを食べよう)であれば、let’s、eat、steakを知っていれば、この文を理解できる。興味深いのは、加えて、話し手が聞き手と一緒に食べることも理解でき、話し手が聞き手を勧誘していることまで理解できることである。ところが、知っている語(句)で構成されているにもかかわらず理解できない(理解が困難な)ことばがある。そのひとつがthe other way (a)round(あべこべ・逆に)である。

先の例では、文の意味と理解される内容に乖離がある。とはいえ、文脈が特になくても、おそらくその乖離を埋めることができるだろう。これに対し、後の例の理解には文脈が必ず必要となる。語(句)の意味自体の理解は可能であるにもかかわらず、である。注意すべきなのは、the other way (a)roundが文ではなく句だから、このようなことが起こるわけではない点である。

the other way (a)roundの3用法

the other way (a)roundは主に3通りの使い方がある。ある行為の方向が「逆である」ことを述べる副詞的用法、あることが「逆である」ことを述べる叙述用法、最後に、ある事態とは「逆である」ことが当てはまることを述べるvice versa用法である。それぞれ以下の(1)ー(3)で示される。

  1. This jacket is styled for the American market, so the pocket zips open bottom to top and the main zip connects the other way round.

  2. Some people might say advertising reflects society, but I think it can be the other way round.

  3. The women choose their husbands, not the other way round.

(1)は、the other way roundが動詞connectsを修飾していることから副詞的に働いている。この節は、the main zip(ジャケットの前の部分のファスナー)が「逆に」開くことを意味している。これでもある程度は理解できるが、実際にどの方向に開くのかを理解するには文脈に頼る必要がある。(1)では直前の節が表す「ポケットのファスナーは下から上に開く」が理解の助けとなり、the other way roundは「上から下に」という方向であると理解できるだろう。

(2)のthe other way roundは、itが指し示す内容が「逆」のことがありうると叙述している。itのような代名詞が指し示す内容も文脈に依存する。ここでitが指し示すのは、先行節内のadvertising reflects society(広告が社会を反映する)である。話し手(つまり、I)は、これが「逆」のことがありうるという考えを表明している。では、実際話し手が考えていることは何だろうか。これは、反映するものと反映されるものが逆のsociety reflects advertising(社会が広告を反映する)であろう。

(3)はthe other way roundが一見すると他の語と関係していないように見える点で(1)や(2)と異なる用法である。(3)のthe other way roundはvice versaと置き換えることが可能であることから、vice versa用法と呼んでいる。(3)を訳すなら「女性が夫を選ぶのであって、その逆ではない」となるだろう。つまり、(3)はthe other way roundがある事態とは「逆である」ことを表す用法である。この発話の理解には「逆である」事態がどのような事態かを理解する必要がある。the other way roundが表す内容は、先行節が表す「女性が夫を選ぶ」という内容の逆、つまりthe men choose their wives(男性が妻を選ぶ)であろう。

「逆」の理解の奥深さ

このように、the other way (a)round(逆に)の理解は、単にこの句の意味の理解だけではなく、この句が指し示す内容を具体的に理解することが必要なのである。その鍵となるのが、文脈からの情報である。the other way (a)roundの理解に必要な情報を文脈からどのように選択するのか、さらには「逆」をどのように理解するのか。ここには発話や文脈からの情報だけでなく、私たち自身が持っている百科事典的知識(たとえば、husbandとwifeが対の概念であるなど)も関わっている。

語句の意味の理解だけでは真の理解とは言えない。これこそが発話理解の奥深さである。この深淵への到達は、単なることばの理解に留まらず、人間の脳の解明の一端にもなるだろう。

論文

「A Descriptive Study of the other way (a)round.」(2019)KurokawaNaohiko『Memoirs of Osaka Institute of Technology』63(2)p.21-35.

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