全固体電池を考える
2021年12月10日
バッテリーの性能
スマホが普及している現在においては、バッテリーは産業界になくてはならない重要部品となっています。
ではそのようなバッテリーの性能を表す指標としては、どんなものがあるのでしょうか?
主には2つあります。
ひとつは、大きな電力を蓄えることを示す指標であるエネルギー密度です。
この指標の単位はWh/kgまたはWh/lで表されます。
この指標により、バッテリーの持久力が分かります。
即ち、エネルギー密度が高い程、スマホにして電池の充電が長持ちする訳です。
もうひとつは、充放電時の入出力電力の大きさを示すパワー密度です。
パワー密度の単位はW/kgまたはW/lで表されます。
この指標により、バッテリーの瞬発力が分かります。
即ち、パワー密度が大きい程、スマホの充電時間が短くなったり、より大きな負荷のかかるデバイスを動かせたりします。
全固体電池とは?
全固体電池とは、電解液がなく正極と負極の間に電解質セパレーター層のみがある電池のことです。又、全固体電池は、バルク型全固体電池 薄膜型全固体電池の2種類あります。
バルク型全固体電池は、リチウムイオン電池と構造的に類似しており、違いは固体電解質を使用しているという点です。バルク型全固体電池を実用化するには、高い導電率を示し、界面形成が容易な固体電解質の開発が必要になります。
薄膜型全固体電池は、スパッタ法、真空蒸着法、パルスレーザー堆積法等の気相法を用いた薄膜の積層により製造されます。この方式はサイクル寿命に優れていることが特長です。
また材料については、大きく酸化物系と硫化物系があり、前者はデバイス用途に後者はEV用途に適しています。
EVの課題
EVが注目されていますが、EVには数々の問題が存在しています。
EVは一回の充電で走行できる距離が短く、急速充電器の普及がないと安心してドライブが出来ません。
急速充電設備があったとしてもガソリン車であれば、5~10分程度で給油できるのに対して、EVであれば急速充電ですら30分程度かかるので、EVの導入が進んでいる中国や北欧では長時間に渡る充電待ちが生じています。
また、価格もまだまだ高いという課題も存在しています。
EVの主要部品であるリチウムイオン電池のコストがまだまだ高いことが原因です。
リチウムイオン電池の価格の2/3はリチウムやコバルトといった高価な材料によって構成されているからです。
しかもEVのバッテリーは長年使用すれば、劣化してきますので、ガソリン車と比較して、中古車の残存価値がずっと低くなります。
EVに使用されるバッテリーは廃棄する際に環境汚染を引き起こしてしまうやっかいな代物です。
しかもリチウムイオンバッテリーが可燃性であり、海外ではEVの爆発事故がたびたび報じられています。
このように現在ではEVは問題だらけであり、以上の問題解決のために全固体電池の実用化が期待されています。
しかしEV用の全固体はまだ量産レベルではなく、リチウムイオン電池がコスト高だからEVがコスト高であるという問題は、全固体に置き換わったからと言って簡単に解決できそうにはありません。
又、全固体電池用の生産ラインはリチウムイオン用の既存の生産ラインを活用できない事も量産上の課題であり、既存のリチウムイオン用の生産ラインの一部を活用可能な半固体電池も今後、注目されていく事でしょう。
デバイス搭載への期待
EV用の全固体電池の実用化にはまだまだ時間がかかるとして、真っ先に期待されるのは、デバイスへ搭載される小型全固体電池です。
その先陣を切っている会社が電子部品メーカーの村田製作所です。
村田製作所はデバイス向け全固体電池の早期量産化を表明しています。
デバイスに搭載される小型の全固体電池は、補聴器やロボット向けなどの位置制御機器や、環境データを収集するIoT機器等に展開される見込みです。
村田製作所は滋賀県の工場で月産10万個の生産を計画しています。
デバイス用の小型全固体電池に対して、筆者が一番注目しているポイントは、全固体電池をチップ部品化して、基板実装できる点です。
そうなればモバイルデバイスの更なる小型化が期待できます。
ものづくりの考え方にスケールアップという考え方があります。
小さなアプリケーションから始めて、技術力が向上してから少しづつスケールを大きくしていくやり方です。
期待の高い全固体電池ですが、スケールアップの考え方で技術を蓄積しながら、着実に用途拡大をしていくやり方が良いのではと思います。
大阪工業大学
研究支援・社会連携センター
シニアURA
北垣和彦