核融合発電への期待
2021年11月25日
核融合発電への期待
DXの進展により、一説によると電気の使用量が爆発的に増えて、現在の30倍に達すると予想する人がいます。
増大化する電気量を太陽光発電や、風力発電といった再生可能エネルギーに頼ろうとすると、膨大な設置面積が必要となり、その事による環境破壊が懸念されます。
又、多くの再生可能エネルギーは天候等に左右される不安定電源であるとともに、発生する電気の波形が十分整っていないため、半導体製造のような産業用途には、適しない電力源です。
従いまして、爆発的に増えるであろう電気需要を賄うためには、高効率な火力発電に加え、原子力発電についても再構築して行く事が現実的な施策になりますが、福島の事故以来、従来型の原子力発電を新設するのは社会が許さない状況になって来ています。
そこで比較的安全性が高いとされている小型原子力発電が注目されていますが、筆者は核融合発電に秘かに期待を寄せています。
核融合炉は重水素と三重水素と言った軽い元素が材料に用いられ、生成物もヘリウムと中性子なので、安全かつクリーンです。
核融合発電は一言で言えば、人工太陽を実現する試みです。
過去を振り返ってみますと核融合発電は主にトカマク方式と呼ばれる磁気によるプラズマ封じ込め方式の開発が行われてきており、ビッグデーターと機械学習により、近年急速にトカマク方式の実現に向けて急加速しています。
ITER計画について
日本・欧州・米国・ロシア・韓国・中国・インドが加盟するトカマク方式による核融合炉を実現するための超大型プロジェクトです。
人類初の核融合実験炉を実現するため2025年の運転開始を目指しています。
日本におけるITERの窓口は、量子科学技術研究開発機構です。
ITERはフランス サン・ポール・レ・デュランスにあります。
慣性核融合について
トカマク方式以外の核融合を実現する別の方式の炉として考えられているのが、慣性核融合炉です。
慣性核融合の原理を理解するために、まずは球状の燃料ペレットを想定していましょう。
球内部は三重水素や重水素気で満たされています。
これに非常に強いレーザー光を当てると、急激な表面部分の加熱、プラズマの膨張により、慣性の法則に従って、その反作用として燃料球自身が内部へ爆縮を起こし、内部の圧力は1億気圧にも達します。
慣性の法則を応用していますので、慣性核融合炉と呼ばれています。
この圧縮による衝撃波などにより、中空の気体部分は1億度以上という高温になり、後述するローソン条件を満たすと、核融合が可能となります。
主燃料部分も核融合反応を開始し、最初に与えたレーザー光によるエネルギーよりずっと多いエネルギーを発生することとなります。
ローソン条件
核融合反応でエネルギーを取り出すためには、ローソン条件を満たしている必要があります。ローソン条件とは核融合における重水素と三重水素による燃料プラズマを高温に加熱し、核融合反応が持続的に起こるために必要なプラズマの温度、密度、閉じ込め時間に関する条件の事を示します。
核融合反応を起こすためには、プラズマ密度と時間の積がある一定値以上でないと融合反応は発生しません。
従来のトカマク方式は、磁気閉じ込めにより、核融合では低密度のプラズマを長時間保持することを目指しています。
慣性核融合の一つとしてレーザーを使用する方法が提唱されています。
レーザーを使用する場合、慣性核融合を起こすために燃料の圧縮と加熱のために大出力のレーザーを用います。
レーザー核融合炉の課題
レーザー核融合炉の場合、レーザーで燃料球を照射する訳ですが、核融合を起こせる高エネルギーを作り出すためには、レーザーのエネルギー効率を高める必要があります。
しかし、現在の技術では、消費されるエネルギーに対して作られるレーザーのエネルギーは1%にも満たないない状況にあります。
少なくとも10~30%にしなければレーザー核融合炉として実用化するのが困難です。
又、そのような高出力のレーザー発生器の場合、寿命も課題となります。
現在のレーザー発生器寿命はと言えば、レーザーを数百発程発射しただけで部品交換しなければならないですが、実用化するためには、1億発程度の寿命が必要と考えられています。
長寿命化のためのレーザーとしては、ダイオードレーザーやエキシマレーザーが想定されています。
技術の波及効果への期待
以上のように核融合炉の実現にはまだまだ多くの課題が存在します。
しかしこれらの課題解決を通じて、周辺技術の大幅な進化が期待されます。
核融合発電自体が夢のある技術ですので、今後の核融合発電技術には大いに期待しています。
大阪工業大学
研究支援・社会連携センター
シニアURA
北垣和彦