科学技術と物語
2021年6月11日
なぜ科学はストーリーを必要としているのか
このタイトル名はオルソン,ランディ氏の著書のタイトルです。氏は生物学で博士号を取得され、ニューハンプシャー大学で教授として教鞭をとったあと、南カリフォルニア大学映画芸術学部で映画製作を学ばれましたその経験を基に、数々の映画の脚本執筆・監督を行った異色の人物です。
従って、ハリウッド流の映画制作のノウハウを持って、科学の在り方を考察しています。
皆さん、科学技術論文を読まれた事はあるでしょうか?
何が書かれているかちんぷんかんぷんで、全然、面白くないですね。
でも実際には科学にはいろいろなストーリーが溢れています。
論文を書くのと同様に、研究者は自分の研究内容を世の中に伝えていかなければなりません。
人は、物語、即ちストーリーが好きなのです。
そんな科学技術のストーリーテーラーとしてサイエンスライターという職業があります。
有名なサイエンスライターとしては竹内 薫氏がいます。
しかし数少ないサイエンスライターだけに科学技術のストーリーを語ってもらうだけでは間に合いません。
科学技術はいま、数々の重大な局面に直面しています。
科学技術はデーターや研究結果の切り取り等による都合の良い加工により、偽陽性が頻発しており、場合によっては政治利用されたりしています。
著者は主張します。
現実社会における「物語」の力を応用してきた人々に対して、科学技術者が、その助けを求めるべきだということを。
なぜならば「物語」は、人々に長年に渡り、浸透しているので、科学技術をストーリー化すれば、科学技術者以外の人々の監査の眼に入って来やすくなるからです。
ABT構造
前述のなぜ”科学はストーリーを必要としているのか”の前書きに書かれているのが、次の言葉です。
「この本の中で、たった一つだけ得ていってほしい知識があるとすれば、それはABTだ。物語のためのテンプレートで、これに適うものはない。」
そこでABT構造について説明します。
まずABT構造のAは
And(そして)を意味しており、 背景・合意の事であり、弁証法でのテーゼにあたります。
次にABT構造のBはBut(しかし)を意味しており、 問題提起・対立の事であり、弁証法でのアンチテーゼにあたります。
そしてABT構造のTは
Therefore(したがって)を意味しており、解決策・帰結の事であり、弁証法でのジンテーゼにあたります。
即ち弁証法的なストーリー展開をすれば、科学技術において物語を演出する事が可能となるという事になります。
URAはストーリーテーラー
大阪工業大学は2019年度からURA制度を導入しまして、現在3名のURAで研究支援、産学連携。大学発ベンチャー起業支援等の仕事に取り組んでいます。
URA(University Research Administrator)は、大学において、教員でもなく事務職員でもなく第三の職能として、研究者とともに研究活動の企画・マネジメント、研究成果の活用促進を行うことにより、大学全体の研究力の強化を行う職能の事です。
URAは科学技術のストーリーテーラーとしての役割も担っていると思います。
私も今後、コラムに投稿するときはストーリー性を意識し続けていきたいと考えています。
大阪工業大学
研究支援・社会連携センター
シニアURA
北垣和彦