プロセス指向と産学連携
2021年4月3日
優良企業はプロセス指向
日本企業で株式時価総額1位の会社と言えば、トヨタです。
第2位は孫正義さんのソフトバンクです。
ではソニーと第3位争いしている会社は?
この問題を即答できる方は業界通でしょう。
答えはキーエンスです。
キーエンスは、大阪市に本社を置く、自動制御機器、計測機器、情報機器、光学顕微鏡・電子顕微鏡などの開発・販売を行っているファブレス企業です。
私自身も操作型電子顕微鏡をキーエンスから購入した経験がありますが、その際に思ったのは、なんと合理的な会社だろうという点です。
科学的プロセスに基づいた営業スタイルであり、営業マンの行動にムダがありません。
ムダと言う言葉を聞いた際に、まず思い浮かぶのはカンバン方式で有名な、株式時価総額1位のトヨタです。
トヨタは何万点もの部品で構成される自動車の生産において在庫のような顧客価値を生み出さない徹底したムダ取りを行う事により、高収益を確保して来ました。
このようにトヨタやキーエンスのような多くの優良企業はプロセス指向であると思います。
ロボット業界について
一方で、産業用ロボット市場は実体ある市場ですが、サービスロボットは期待され続けていますが、市場としては未だに本格化していません。
私は、パナソニックから大学への転職組ですが、パナソニック在職中には、偶然にも産業用ロボットの海外営業責任者という職務とサービスロボットの事業企画責任者という両方の立場での職務を経験する事が出来ました。
その経験から、産業用ロボットとサービスロボットの関係者の意識や価値観には大きなギャップがある事に気が付いていました。
産業用ロボットの顧客は明確に投資対コストを明確に意識しています。
顧客にとってロボット導入の理由は、生産性向上による原価低減であったり、品質の向上の手段であり、ロボットを導入する事が目的ではありません。
その事は、ロボット提供側も良くわかっています。
一方で、サービスロボットの世界は、ロボットを導入する事が目的化してしまっている嫌いがあり、なかなか市場が本格化しない一因ではないかと思います。
産学連携とプロセス
産学連携の推進が叫ばれています。しかし米国や中国、韓国と言った国々と比較して、日本の産学連携の取り組みの遅れが、指摘されています。
産学連携の仕事を進めるにあたり、私が痛感しているのはサービスロボット業界と同じ現象が起こっているのではないかという点です。
即ち、産学連携を目的化していないかという事です。
産学連携は企業と大学がWIN-WINに双方の目的を達成するための手段に過ぎません。
では企業にとっての産学連携のメリットとは何でしょうか?
企業が組織を継続させるためには利益を重視せざるを得ません。
研究開発はどうしても直ぐに事業化出来そうなものに特化せざるを得なく、いつ事業になるか分からないものについては優先順位が下がります。
集中と選別が求められます。
一方で、研究はやってみなければ何が将来、大当たりするか分からないという側面があります。
ばら撒きという言葉にはネガティブな印象が付きまといますが、ある程度においては、研究分野においては、ばら撒きが許容されるべきだと考えます。
科研費という国が大学に提供してくれる研究費がありますが、これは学術的な意義があれば、実用的かどうかは、置いておいて、研究費が支給される制度になっています。
基礎研究ですから、実用化や事業化の可能性はさて置き、あらゆる学術的に意義のある研究シーズが大学には存在しています。
そのような研究シーズの中には、数は少ないですが、将来、大化けしそうなものも埋もれています。
企業ではどうしても短期的視点での開発に取り組んでしまいますので、企業では手がけられない中長期視点で生まれた研究シーズが大学には埋もれています。
企業が間違えてしまう産学連携の考え方は、大学を自社の開発業務の分担者として位置付けてしまう事です。
分かりやすく言えば業務委託的な感覚です。しかしこれは失敗する可能性が高いです。なぜならば、企業と大学では研究の時間軸が異なるため整合がとれず同期化できないためです。
では産学連携における最適なプロセスとはなんでしょうか?
最適なプロセスを構築するのにまず必要なのは、相互理解だと考えています。
企業と大学の両面から産学連携を経験した私にとっては、この両者の間に存在する認識の大きなギャップを感じます。
私自身が産学連携を進めていくに当たっては、企業と大学に存在するギャップを辛抱強く、埋め合わせつつ、双方がWIN-WINになる産学連携を進めて行きたいと思いますので、どうぞ宜しくお願い致します。
大阪工業大学
研究支援・社会連携センター
シニアURA
北垣和彦