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量子コンピューターvs小さなAI

2021年4月20日

投稿者: 北垣和彦

ムーアの法則

ムーアの法則をご存じでしょうか?ムーアの法則とは、大規模集積回路(LSI IC)の製造における長期視野での経験則であり、長い間、半導体業界におけるマイルストーンとしての指標という存在でした。

ムーアの法則は、その名前のと通り、ゴードン・ムーア氏により、1965年に論文発表した経験則です。ムーア氏は論文発表当時はフェアチャイルドセミコンダクターに所属していましたが、その後、あの半導体業界の雄であるインテル社の創業メンバーの一人となる方です。このように半導体業界において偉大なる業績を成し遂げたムーア氏の経験則は長らく、半導体産業に根付いていました。

では、ムーア氏が発見したその法則とは、どんな法則だったのでしょうか?

ムーアの法則では集積回路あたりの部品数が毎年2倍になると発表当初は予測していました。ただしこの法則は1975年には修正されており、毎年から2年毎に変更されて来ました。しかし皆様もお気づきのとおり、ムーアの法則に従ってスケールダウンしていけばやがて、回路は原子レベルに至り、限界を迎えます。今、まさしくその限界点に近づこうとしています。

半導体の微細化のメリットを整理しておきましょう。半導体の回路がk分の1に細分化されると、電子や正孔の移動がその分短くなりますから、動作速度がk倍あがります。また回路の集積度はkの二乗倍となるので、劇的にデバイスが小さくなります。又、微細化により消費電力がk分の1に下がるというメリットもあります。これらの法則はスケーリング則と呼ばれています。

 

ムーアの法則の限界

一方で、長年に渡りムーアの法則はうまく機能してきました。半導体業界として、ムーアの法則をマイルストンとして、アセンブルメーカ、デバイスメーカ、装置メーカ、材料メーカ等のステークホルダーが歩調を合わせて、開発に取り組んできました。

しかし、いよいよ究極まで微細化が進捗した事により、ムーアの法則に限界が来ています。

  • 現在、主流であるエキシマレーザーによる露光技術では10nmまでの微細化は実用化されています。
  • 10nm以下では極端紫外線リソグラフィ(Extream Ultraviolet Lithography)が必要となりますが、一台約150億円程度という超高額な装置が必要となります。
  • 5nm以下では量子効果が顕在化する領域になり、何か大きな技術のブレークスルーが無ければ実現不可能とされています。

ではムーアの法則が限界まで来た現在、半導体はどの方向へ向かうのでしょうか?

 

量子コンピューターの登場

前述のとおり、5nm以下の微細化では量子の世界の影響を大きく受ける事になります。そういう意味から、コンピューターの世界はこの量子現象を活用したもの即ち、量子コンピュータにたどり着くというのは必然的な流れとなります。

量子コンピュータの原理は、量子力学で言うところの重ね合わせや量子もつれのような量子力学の現象を用いた原理となっています。量子コンピューターでは、これらの現象を活用して、ノイマンがその原理を考案した従来のコンピュータでは解決できなかった問題が解決できる事が、期待されています。

量子コンピュータの概念は、古くは、「ご冗談でしょう、ファインマンさん」の著書で知られる物理学者のリチャード・ファインマンが、「自然をシミュレーションしたければ、量子力学の原理でコンピュータを作らなくてはならない」と記載した事で、世間にはその概念が知られる機会になりました。

量子コンピューターの本命は「量子ゲート」を用いたものですが、これはハードルが高く、量子アニーリング方式等の他の原理を用いた量子コンピューターの研究も盛んになされています。

「量子ゲート」について少し説明をしましょう。

ノイマン型コンピューターにおいては、情報は0か1で取り扱われます。この取り扱いの単位の事をビットと呼んでおり、0,1以外の情報は取り扱いすることができません。

しかし量子コンピュータはノイマン型コンピューターとは異なり、「量子ビット」なるものが用いられ、重ね合わせ状態によって情報を扱うことが可能となります。

量子ビットがN個あれば2のN乗の状態を同時に計算し、その状態を重ね合わされた結果を得る事が出来ますが、それだけでは従来型コンピュータに対して、画期的に高速になる訳ではありません。

高速性を得るには量子コンピューター専用の新たなアルゴリズム開発が必要になります。

話が、迷走して来ました。

ここは少し、話を変えて、量子コンピュターが得意な事を考察してみましょう。

 

量子コンピュータの得意な事

量子コンピュータは原理的には波動関数と相性が良いとされています。波動関数は狭い意味では、量子の状態を表すものですから、当然と言えば、当然です。

量子の状態とは、確率振幅の事ですが、関数 Ψで表現され、 Ψ のパラメーターとしては電子の位置座標 r と時間 t から構成されています。又、関数Ψ の時間的変化はシュレーディンガーの波動方程式によって規定されています。量子力学では、状態を直接観測する事は不可能なので、例えば、時刻 t に電子が r の位置で微小体積 dτ のなかに見出される確率が表されます。

この原理から量子コンピュータは化学物質の計算や量子力学の計算を行うのに適しています。

 

量子アニーリング方式

上記は量子ゲート方式による量子コンピュータの説明でしたが、実用化はかなり難しく、先行して既に商業化されている量子コンピュータに量子アニーリング方式があります。

この方式は1998年に東京工業大学の西森教授たちが提案した方式です。

量子アニーリング方式は組み合わせ最適化問題に特化しており、取り扱い変数の数は量子ゲート式よりも格段に多いのです。

日本人が考案したのに、商用化したのはカナダのベンチャー企業であり、東京工大とNECが産学連携できていれば、日本製が商用化第一号になっていたのにと考えると残念です。

 

組合せ最適化問題

量子アニーリング方式の量子コンピューターが得意な組合せ最適化問題とはなんでしょうか?それは、各種制約条件下で、数多くの選択肢の中から、ある指標を最大化する変数の値の組み合わせを求めることです。 有名な組合わせ最適化問題に巡回セールスマン問題があります。

巡回セールスマン問題について解説します。セールスマンが複数の都市に跨る顧客を1度ずつ、すべて訪問する予定を立てたとします。

ただし上司からは、一つ条件が出されました。すべての顧客訪問を終えて、会社に戻ってくるのに、移動距離が最小になるように出張せよと。

一見簡単そうに見えるこの問題ですが、莫大な組み合わせが存在し、都市の数が増えれば、スーパーコンピューターを用いても最適解を求めることが困難になります。

例えば、30都市のときには、30!(階乗)即ち、4.42×10の30乗通りになってしまいます。

このように訪問都市と言ったパラメータが増えると組合せが爆発的に増える問題を、組合せ爆発と呼んでいます。

このような組み合わせ爆発問題を解くのに、量子アニーリング方式は向いているのですが、既に量子コンピューターを商用化しているカナダD-WAVE社の量子コンピューターは約17億円もします。

最適解でなくても、組合せ爆発を解消する技術はないのでしょうか?

尚、参考までに、ガートナー社発表している先進テクノロジーのポジショニングを表現しているハイプサイクルをガートナーのHPから引用します。

まさしく量子コンピューターに対する期待がたかまりつつあります。

ガートナー社のHPから引用

小さなAI

その答えの一つが、大阪工業大学 情報科学部の平嶋准教授が開発した小さなAIです。

参考記事:選択的汎化作用を有する強化学習

小さなAIは、全てコンピュターで計算するという考え方ではなく、ユーザーへのヒヤリングを通じて、人の経験を基に、数式をチューニングし、ノートPCレベルで組合せ最適化問題を解いてしまう技術です。

この小さなAIはJST(国立研究開発法人科学技術振興機構)のSTARTプログラム(研究成果展開事業 大学発新産業創出プログラム)の枠組みで、近々、大阪工業大学発ベンチャーを起業する予定ですので、こうご期待!

 

大阪工業大学

研究支援・社会連携センター

シニアURA

北垣和彦

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