日本のDXを阻む2025年の崖を乗り越えるためのマインドセット
2021年4月27日
日本のシステムの課題
「2025年の崖」とはなんでしょう?これは日本のDXを阻む深刻な問題なのです。
日本においては、IT 設備が、複雑化・老朽化・ブラックボックス化しています。これは製造設備でも同様の現象が起こっていますが、日本は早くから先進国の仲間入りをし、設備投資は古くから行われている上に、日本人はもったいない精神が強いので、古い設備をなかなか新しい設備に更新せずに、その上、日本人の器用さで、古い設備でも使いこなしてしまう事が禍していたのかも知れません。
古い既存システムが残存したままの場合、最新設備を導入している他国との競争に敗れる事になり、日本の国際競争力は著しく低下し、日本経済がますます停滞する事が懸念されています。
この課題を2025年までに解決できなければ、旧システムに対応可能な高齢のプログラマーやシステムエンジニア等の人材は引退し、システムを維持できなくなり、深刻な事態を引き起こす可能性が危惧されているのです。
レガシーシステムによる悪循環
古い設備の中で、特に問題視されているのが、老朽化や複雑化、ブラックボックス化している既存の基幹システムの存在です。レガシーシステムとも呼ばれています。
レガシーシステムが存在する事により、多くのランニングコストが費やされます。さらに悪いことには、人的リソースが費やされることです。その事により利益が圧迫され、新規設備投資ができなくなる悪循環に陥ってしまいます。
このような21年以上活動を続けるレガシーシステムが、2025年に全体の60%を占めるという予測があり、これらの事により引き起こされる弊害を2025年の崖と呼んでいます。
企業にとってレガシーシステムの最大の問題は単なる設備の老朽化による低性能化や技術人材の確保だけではありません。
自社システムの中身がブラックボックス化されてしまって、新たなシステムへの置き換えが極めて困難になってしまっていることにあります。
これは、日本の経営スタンスに由来している事が多くあり、情報技術を経営にうまく取り込んでこず、情報技術者のポジションが低めに見積もられてきたという事にも起因しているでしょう。
2025年の崖を乗り越えるためのマインドセット
まず、現実的な解としては、ブラックボックスなレガシーシステムを知っている定年退職者、特に技術者の再雇用を行い、2025年の崖がやってくるのを先延ばしにする事でしょう。
ここである程度、時間を稼いだ上で、抜本的に自社の業務プロセスを見直した上でシステムを刷新していく必要があります。
この際によくある失敗の事例が、現在の業務プロセスを何も変えずに、そのまま新しいシステムに置き換えようとする事です。
それをしてしまうと、新しいシステムを導入する事により、生産性が向上するどころか、逆に生産性の低下を引き起こしてしまう事がしばしば生じます。
新しいシステムを導入するには、新しいシステムに対応して、今までの業務を抜本的に見直す必要が出てきます。
そうしないと生産性の向上は期待できません。
又、とても重要なのはデーターの関係の正規化です。
関係データベース において、正規形と呼ばれる形式が存在します。正規形にデーターベースを準拠させることにより、データの一貫性の維持効率的なアクセスが可能となります。
そのような基本的な事を知らないまま現場の社員が既存のデーターベースをそのまま移行しようとすると色々と不具合が生じてしまうのです。
しばしば非合理的な組織では、基本的な原理・原則を無視して、ローカルルールに基づく、間違えた慣習を定着させてしまいます。
典型的な事例を示します。
皆様、エクセル方眼紙という言葉をお聞きになった事があるでしょう。
エクセル方眼紙とは、シート上のセルが正方形になるように幅と高さを均一に設定して、方眼紙のように使用する方法です。
エクセル方眼紙で作成された文章では、いろんな弊害が生じます。
・エクセル方眼紙で、冊子を作成したら、本文のページ数の増減にあわせて、目次を全て修正しなくてはならなくなった。
・新しい項目や記入欄を追加したら、レイアウトがぐちゃぐちゃに崩れて、結局、ほぼゼロから作り直す羽目になった。
・データー並べ替えようとしても、途中でセルの結合されている所があり、並べ替えれない。
・銀行口座番号を入力フォーマットに入力するのに、数字、一つ、一つ入力しないといけない。
このような事例を示すと、読者の皆様も「ある!ある!」と共感頂けるのではないでしょうか?
エクセル方眼紙のような使い方は、エクセルの本来の使い方からは逸脱している使い方であり、エクセルの能力を全く活用できていない使い方です。
又、エクセル方眼紙の考え方はローカルルールにシステムを合わせようとする考え方です。
エクセル方眼紙の話を長々としてしまいましたが、日本が2025年の崖を乗り越えるには、既存のシステムそしてローカルルールへこだわる事をやめて、代わりに、科学的・合理的なマインドセットを身に着ける必要があるのではないでしょうか?
大阪工業大学は工科系の大学です。
特に工科系の大学の重要なミッションの一つは、科学的な手法に対するマインドセットを教育を通じて学生さんに身につけて頂く事ではと考える次第です。
大阪工業大学
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シニアURA
北垣和彦