RESEARCH TITLE 【2021年度研究PJ】主観・客観融合型の共創的AR/VRブラウジングシステムの構築

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RESEARCHER研究者リスト

※2021年度当時の所属で表示しています

研究代表者ロボティクス&デザイン工学部 空間デザイン学科朽木 順綱 准教授

研究分担者

ロボティクス&デザイン工学部 空間デザイン学科

 大石 容一 教授

研究分担者

ロボティクス&デザイン工学部 システムデザイン工学科

 中山 学之 教授

研究分担者

ロボティクス&デザイン工学部 システムデザイン工学科中泉 文孝 准教授

研究分担者

ロボティクス&デザイン工学研究科

井門 優菜 博士前期課程

研究分担者

ロボティクス&デザイン工学研究科夏目亜利沙博士前期課程

外部協力者㈱ペルペトゥーム吉岡 史樹 代表

外部協力者

NowResearching合同会社北本 悠伍 代表

OVERVIEW研究課題の概要

 今日,VR/AR技術の普及はめざましく,特別な技術や知識がなくても,一般ユーザーのレベルにおいて,簡易的なVR/ARコンテンツの制作や配信が可能な時代が訪れつつある。また,2021年3月に公開された「PLATEAU」(国土交通省主導による3D都市モデル整備・活用・オープンデータ化プロジェクト)をはじめとして,国土地理院の提供する各種GISデータなど、公的な地理情報が単なる画像情報としてのみではなく、編集やデジタル計測にも応用可能な3次元データベースとして相次いで公開されはじめている。

 こうした3次元情報の利用形態が加速的に多様化する一方で,それらを閲覧する形式としては,VR/ARゴーグルやスマートフォンなど,あくまで個人端末に限定されたものが依然として大半を占めている。たとえば上述の3次元地理情報は公共性が高く,多くのユーザ間で同時に共有され,閲覧されることによってこその意義を十全に獲得できるといえるが,現在の普及レベルでは各自の端末で別々に閲覧するにとどまっており,同一の地理情報を共同編集したり,ユーザー間でそれぞれの視点や位置情報を共有しながらリアルタイムで閲覧したりするような方法を確立できていないのが現状である。たしかに例えばMicrosoft社の「HoloLens2」などのいくつかのMRデバイスでは,ユーザー間での仮想オブジェクトの同時共有や、編集をすることが可能とはなっているが,そのためにはデバイス専用のプログラムの開発が必要になるなど,一般ユーザーが手軽に利用できるようにデザインされているとは言い難い。

 現実の建物や空間であれば,観察者それぞれの視点の位置や角度によって,見える箇所と裏側に隠れる箇所が存在するため,共同観察や観察者視点の客観化が,新たな集合知の構築へ向けた共創性を生み出しているといえる。一方,現状のVR/AR閲覧端末においては,こうした実際の空間的性質が必ずしも反映されるわけではなく,むしろ視点を他者と共有せずとも,仮想的な主観視点が自由に移動できることから,各ユーザは主観の域をあえて越え出ようとせず,いまだVR/AR空間ならではの客観性や共同性を獲得するための条件付けがなされていない。しかしながら,こうした主観完結型の閲覧形式ではなく,ARならではのサイトスペシフィックな特性を反映した,各ユーザーの多様な視点を共有,統合することで得られる新しい仮想空間の公共性が実現することで,仮想空間という可変的かつリアルタイムな高度情報データベースが,将来的により共創的なプラットフォームとなりうることが期待される。

 そこで本研究では,VR/AR空間の閲覧経験を,実在の空間経験へとより近づける試みとして,VR/ARコンテンツを閲覧する際に,これまでのゴーグルによる閉鎖的,主観的視点だけでなく,公開性のある客観的(他者による)視点とを融合させた閲覧システムの構築を試みる(図1,本応募者らによる先行開発事例)。具体的には,仮想上に存在する建築物を,それぞれの閲覧端末ごとの視点に合わせて表示内容を変化させる(仮想空間内の位置情報とそれぞれの端末の位置情報,姿勢情報とを連動させる)システムや,ある個人が端末を通して閲覧している内容を他者が共有したり,閲覧しているユーザー全体の位置関係を俯瞰する(ユーザー間の位置情報の交換,共有により全体マップを生成する)システムなどを開発する。このことにより,個人的なエンターテイメントという枠を超え,VR/ARがより公益性をもち,新しい公共空間として共有,共用できるコンテンツ領域としての新たな意義,あるいは空間本来の可能性を仮想空間でも実装することを目論む(図2)。

 

図1(チャリウッド2019・大阪工業大学梅田キャンパス・2019年5月12日) ※図中赤点線で囲んだユーザー主観で体験している仮想空間が、背景の大型スクリーンにユーザー自身のイメージを含んだ客観視点で表示される。
図2(本応募研究の開発イメージ) ※ユーザーそれぞれの主観視点と、それらが統合されることによる客観視点との融合による共創的仮想空間情報の構築

REASON課題実施の根拠

・学会・業界における位置づけ

 本応募者が属する空間デザインの分野では,2020年度に「建築情報学会」が発足するなど,建築および空間デザインにおける情報学の重要性がより高まっているとともに,建築学と情報学との連携,融合による新しいデザイン手法の可能性などが模索されている。しかしながら,こうした取り組みの多くが,建築設計者のデザイン支援システムの構築や,新たな造形アルゴリズムの開発などであり,いわば建築設計者目線での研究が大半であるといえる。このなかで,本応募研究は,空間デザインの大半が対象とする公共社会(一般利用者)への情報学の貢献可能性を探求するものであり,上欄での記載の通り,実空間の公共性,公益性にも通じるような,仮想空間の客観化による共同利用,共同構築という,共創への道を開くものであるといえる。

・環境分析

 今日の建築学,空間デザイン学におけるVR/ARコンテンツの利用機会の多くは,計画中の建築物や内装デザインを仮想的に閲覧するものや,老朽化などのため取り壊される建築物を3Dデータとしてアーカイブするものなどが大半である。しかし,それらがVRとして表示される場合は閉鎖的な仮想空間での表現にとどまり,必ずしもサイトスペシフィックなものではなく,また,ARまたはMRとして示される場合も,すでに完成されたコンテンツを現実空間上に重ね合わせて表示していることがほとんどであり,リアルタイムに編集されたり,更新されたりするものではない。このことはたとえば,従来の辞典や辞書のコンテンツが,紙媒体として閲覧されるか,デジタル媒体として閲覧されるかの違いに例えることができ,その両者ともが,すでに完成されたコンテンツを閲覧することにとどまっている点では同じことであるといえる。すなわち,建築学,空間デザイン学におけるVR/ARコンテンツの利用は,こうした例と同じように,現状のところ現実空間と仮想空間が十分にインタラクティブに連関しているとは言い難い。ここで辞書コンテンツの例にもどれば,本研究で着目するのは,オープンソースとしてリアルタイムで編集,共有される,Wikipediaのような新たな知の共創プラットフォームである。すなわち本研究では,完全な仮想空間化ではなく,現地,現時点(「いま・ここ」)における現実空間の身体経験に重ね合わせられてこそ意味をもつような,現在進行系での空間情報プラットフォームの構築を試みる。

 先行事例としては,アーティストのライブ会場のその場において,観客全員がゴーグルなどを装着することなくAR映像をリアルタイムで全方位から鑑賞できるシステムの開発(図3,真鍋大度,花井裕也,AR/VR技術によるライブ映像演出,電気情報通信学会IEICE会誌,第103巻第6号,pp.564-570,2020年6月)などがある。他には主観視点の客観的統合表現の手法として、ソニーコンピュータサイエンス研究所と山口情報芸術センターが研究開発をおこなった「視点交換」によって人の近くを拡張する「Parallel Eyes」、SynergisticMuseum:博物館来館者同士の視点交換に着目した展示見学支援手法の提案(情報処理学会, 佐藤 美祐, 西本 一志, インタラクション2017論文集, 2017, pp.308-313)などがある。いずれもライブの演出アートなどの表現分野での取り組みが主になっている一方で、複数視点による鑑賞という技術の点では本研究の先行研究として参考になる研究も近年数多く積み重ねられてきている状況にあり,その注目度の高さを認めることができる。


図3(真鍋ほか2019論文収録の図版より一部引用) ※アーティストのリアルタイムな振付けに、仮想的な手描風の影表現が加えられる。

EFFECT期待効果

期待される研究成果

日本デザイン学会への論文投稿(査読付き,2022年3月投稿予定)

日本デザイン学会研究発表大会での発表(2022年3月原稿締切,6月開催)

建築情報学会への論文投稿(英文,国際論文)

期待される知財の成果

VR/ARコンテンツを主観と客観の複合視点により閲覧するという方式の新規性,および,この方式によってリアルタイムにVR/ARのコンテンツが共有,編集可能になるという空間データベースの運用形式や,美術館・博物館等における仮想コンテンツの展示等という新たな応用形式をはじめ,こうした空間データベースが新たな情報プラットフォームとなり,産業各界や研究活動,公共的活動への応用,展開が見込まれるという技術適用範囲の独自性,さらには,これまでの先行技術に基づきつつも,VR/ARコンテンツを私的な利用にとどまらず,公共的な情報基盤として活用しようとする進歩性等に鑑み,本研究によって開発された技術について,随時特許を出願する予定である。

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