RESEARCH TITLE 【2024年度研究PJ】光技術と情報技術の融合による新規有機ナノ材料の創製

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RESEARCHER研究者リスト

D yasukuni

研究代表者工学部 電子情報システム工学科安國 良平 准教授

研究分担者

工学部 電子情報システム工学科

 神村 共住 教授

D-kinjyo

研究分担者工学部

電子情報システム工学科金城 良太 准教授

Harada

研究分担者

工学部一般教育科原田 義之 教授

OVERVIEW研究課題の概要

有機物のナノ結晶はマイクロサイズの結晶とは異なる物理化学特性を発現することが知られており、医療・エレクトロニクスの分野での応用が注目されている。このような有機ナノ結晶の物性変化はサイズに伴う結晶構造のソフト化に起因すると考えられており、ソフト化の程度と空間分布を計測することは物性の多様な変化を理解するうえで重要である。また液中レーザープロセスを用いたナノ粒子作製手法は、簡便に多様な化合物に応用可能であるためにナノ粒子の物理化学特性を調べるための汎用的な作製手法となることが期待できる。しかし、化合物の種類によってはナノ粒子化の効率が非常に低いという課題があった。そこで本プロジェクトでは光技術と情報技術の融合により(1)分子構造に起因するサイズ依存的な結晶構造変化計測及び(2)有機ナノ粒子の生成効率を定量的に評価する方法論を開拓することを目的とした。

REASON課題実施の根拠

(1)分子構造に起因するサイズ依存的な結晶構造変化計測

液中レーザー粉砕法を用いて作製した純水中の有機ナノ結晶に界面活性剤を添加して蛍光スペクトルの変化を測定することで、表面に吸着した分子が有機ナノ結晶の光学特性に与える影響について検討した。

化合物としてビス(3,5-ジメチルフェニル)-3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸ジイミド(PR149)を使用し、0.006 mg/mLの濃度で純水中および界面活性剤水溶液に分散させた。界面活性剤溶液にはドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を最終濃度16 mMで調整した。試料2 mLを光路長1 cmの光学セルに入れ、マグネティックスターラーで撹拌しながらNd:YAGレーザーからのレーザーパルス(波長532 nm,パルス幅 6-8 ns, 10 Hz, 20 mJ/cm2)を照射し、その前後で吸収・蛍光スペクトルを比較した。

 

(2)有機ナノ材料の生成効率の定量評価

側鎖の構造がわずかに異なる化合物を用い、液中レーザー粉砕法において分子構造の差異がナノ粒子化効率に及ぼす影響を明らかにした。

試料としてキナクリドン(QA)、ジメチルキナクリドン(DMQA)、ジブチルキナクリドン(DBQA)0.1 mM水懸濁液を調整した。光学セルに2 mLの試料を入れ、撹拌しながらNd:YAGレーザーからのレーザーパルス(波長532 nm,パルス幅 6-8 ns, 10 Hz,
50 mJ/cm2
10分間照射した。レーザー照射前後で吸収スペクトル測定を行い、吸光度の増加率からナノ粒子の生成効率を評価した。

 

【研究成果と考察】

(1)分子構造に起因するサイズ依存的な結晶構造変化計測

 

PR149を水およびSDS溶液に懸濁しレーザーを照射したところ、どちらもナノ粒子生成に伴う吸光度の増加が観測され、また水中とSDS溶液中で吸収スペクトルの形状に大きな差異は見られなかった。次にそれらの蛍光スペクトルを測定したところ、水中では結晶に由来するエキシマー発光が支配的であるのに対して、界面活性剤溶液中では短波長側に単分子様の蛍光ピークが観測された(図1)。この結果は,ナノ粒子の表面に界面活性剤が吸着したことで結晶表面の分子配列が乱れ、単分子からの蛍光スペクトルが現れたことを示唆している。

(2)有機ナノ材料の生成効率の定量評価

 

QADMQADBQAの水懸濁液にレーザーを照射し、ナノ粒子の生成効率を比較すると、QA175 %DMQA125 %DBQA51 %と側鎖炭素数の増加に伴い生成効率が約3.4倍低下した(図2)。これらの試料は照射したレーザー波長である532 nmでの吸収特性が類似しており、結晶表面の上昇温度は1.6倍程度の差しかないことが推定された。また結晶構造の比較より、水素結合により分子間力が強く硬いQAのほうが、分子間力が弱く柔らかいDBQAよりもナノ粒子の生成効率が高いことが示された。これらの結果から、硬い結晶の場合には温度上昇に伴う熱応力によって脆性的な破壊が生じやすいと考えられる。

図1 液中レーザー粉砕法により作製したPR149ナノ結晶の蛍光スペクトル.

図2 QADMQADBQAのレーザー照射前後での消失スペクトル変化

EFFECT期待効果

期待される研究成果

ナノ粒子形成の主要メカニズムとして、レーザー吸収による局所的な熱膨張が広く認識されてきた。しかしながら、本研究の最も重要な学術的貢献は、分子構造が結晶の力学特性と表面特性をどのように変化させ、それが最終的にナノ粒子形成の「モード」(脆性破壊か、塑性変形か、あるいは表面剥離か)を決定するという、詳細な因果関係を明確に示した点にある。これは、従来の一般的な熱膨張モデルでは十分に説明できなかった、有機結晶の種類による効率のばらつきという課題に対し、分子レベルからの具体的なメカニズム的解釈を提供するものである。本研究は、分子レベルの特性(側鎖の有無や長さ、分子間相互作用)と、マクロな材料応答(結晶の硬度、特定の破壊経路)との間の重要な橋渡しを行うものであり、これまで十分に解明されていなかった分野における基礎的な理解を大きく前進させる。特に、「硬い」結晶がより脆性的に破壊され、効率的なナノ粒子形成をもたらすという「硬さのパラドックス」の解明は、ナノ粒子化のメカニズムに関する新たな視点を提供する。また、tPSAのような単一の分子の特性だけでは説明できない要因(側鎖の立体効果や表面自由エネルギーの分散力成分)の存在を指摘し、複数の物理化学的要因が複合的に作用していることを明らかにした点も、学術的に意義深い。

今後は種々の分子特性(例:オクタノール/水分配係数(logP)、分子容など)と併せて多変量解析を行うことで、表面自由エネルギーや分子構造とナノ粒子形成効率・剥離挙動との定量的な相関関係を確立する。これらの多角的なアプローチにより、分子の構造(側鎖の種類と数)が分子間相互作用、結晶の力学特性、表面特性が破壊モードと効率にどのように影響するかという一連のメカニズムを、より深く、説得力のある形で議論することが可能になると考えられる。

・論文数

投稿論文

1) “Dispersion Stability of Organic Nanoparticles Prepared by Pulsed Laser Induced Fragmentation in Protein Solution”

Ryohei Yasukuni, Akiko Sunada, Nagisa Fujiwara, Naoto Masuda, Yuya Atsuta, Syuji Fujii, Tomosumi Kamimura.

Journal of Photopolymer Science and Technology, 37 (4), p401-405, (2024)

学会発表

1)Application of Laser-induced fragmentation in liquid to organic-polymer hybrid nanomaterials”

Ryohei Yasukuni, Akiko Sunada, Naoto Masuda, Kota Abe, Tomosumi Kamimura

The 41nd International Conference of Photopolymer Science and Technology, Makuhari Messe, June 25-28, (2024)

2) (招待講演)

「液中レーザープロセスを用いた有機材料のナノ粒子化機構」

安國 良平,増田 直人,阿部 晃汰,砂田 明子,神村 共住,杉山 輝樹

レーザー学会学術講演会第45回年次大会2025121-23日広島国際会議場

3) “Laser Induced Fragmentation Behaviours of Organic Crystals in Relation to Intermolecular Interactions”

Ryohei Yasukuni, Akiko Sunada, Naoto Masuda, Kota Abe, Tomosumi Kamimura, Teruki Sugiyama

The 9th International Congress on Laser Advanced Materials Processing, Ise-city, Mie-prefecture, Japan

June 10 to June 13, (2025)

・学会発表

86回応用物理学会秋季学術講演会 202597-10日名城大学天白キャンパス

・ジャーナル投稿予定

“Enhanced efficiency of organic nanoparticles formation by pulsed laser fragmentation in protein solution”

Akiko Sunada, Syuji Fujii, Tomosumi Kamimura, Ryohei Yasukuni

Journal of Laser Micro/Nanoengineering

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大阪工業大学 研究支援社会連携推進課

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