ビニルトリメトキシシランとアセトン, 水, 塩酸をフラスコに収め, 48時間, 50℃で攪拌し8ヶ所にビニル基を有するPOSS (VinylPOSS)を調製した.トリフルオロメタンスルホン酸を用いてVinylPOSSのビニル基一つをスルホネート化した後, 加水分解をすることでビニル基の一つをヒドロキシ基で置換した化合物 (VinylPOSS-OH)を調製した. トリエチルアミン存在下, メタクリル酸クロリドとVinylPOSS-OHを反応させることでMAVinylPOSSを調製した. tert–BuMgBrを開始剤とするアニオン重合法に基づき, 立体規則性をアイソタクチックに制御したPMAVinylPOSS (it-PMAvPOSS)を調製した. さらにエン–チオール反応に基づき, システインを導入することで目的とする高分子it-PMACysPOSSを調製した. また調製したit-PMACysPOSSを600℃で焼成することでキラルシリカの調製を行った.モノマーおよびポリマーの一次構造を核磁気共鳴 (1H, 13C NMR)およびサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)測定により評価し, 高分子の二次構造は振動円二色性分光光度計(VCD)測定に基づき評価した.
¹H NMR測定に基づきit-PMA-CysPOSSの一次構造評価を行った(Figure 1). 6.0 ppm付近に観測されるビニル基のシグナルが完全に消失し、さらに 全てのシグナルが明確に帰属されたことから, 目的とするit-PMA-CysPOSSが得られたと結論付けた. it-PMACysPOSSの二次構造を評価するため, VCD測定を行った (Figure 2a). 1749 cm⁻¹および1250–1150 cm⁻¹のエステル基に由来するピーク上においてにコットン効果が観測されており, さらに (D)および (L)のCysで鏡像関係が示された. より詳細な知見を得るため円偏光発光 (CPL)に基づく評価を行った (Figure 2b). it-PMACysPOSSのn→π*遷移に帰属される450 nmのピーク上においてCPLが観測された。これらの結果はit-PMA-CysPOSSが螺旋構造を形成していることを示している.
POSS誘導体は焼成することによりシリカの前駆体として機能することが知られている。it-PMA-CysPOSSが螺旋構造を鋳型としたシリカの調製に取り組んだ。it-PMA-CysPOSSを600°Cで焼成し、VCDおよび透過型電子顕微鏡(TEM)測定より評価した(Figure 3a, 3b and 3c)。IRのピーク上においてSi-O-Siの非対称伸縮振動に帰属される1240~1000 cm-1のピークのみが観測されていることから焼成過程において有機物が完全に分解し、シリカが得られていることは明らかである。さらにこのIRピーク上においてVCDシグナルが分裂型のコットン効果を示した。TEM像からはサブnmスケールの螺旋構造の形成されていることが観察されていることから、it-PMA-CysPOSSがキラルシリカの鋳型として機能していると結論付けられる。