RESEARCH TITLE 【2024年度研究PJ】極薄フレキシブルサーモクロミックフィルムの開発

RESEARCH

ホーム 研究プロジェクト【2024年度研究PJ】極薄フレキシブルサーモクロミックフィルムの開発

RESEARCHER研究者リスト

研究代表者ナノ材料マイクロデバイス研究センター和田 英男 特任教授

研究分担者

工学部

電気電子システム工学科

前元 利彦 教授

研究分担者

工学部電気電子システム工学科小山 政俊 准教授

D koike

研究分担者

工学部電気電子システム工学科小池 一歩 教授

研究分担者

工学部電気電子システム工学科廣芝 伸哉 准教授

ebtcd0000000d7n1

研究分担者

工学部電気電子システム工学科藤井 彰彦 教授

外部協力者

株式会社 高純度化学研究所

河原 正美 主任研究員

OVERVIEW研究課題の概要

近年、カーボンニュートラルの実現やデジタル田園都市国家構想におけるテレワークの推進により、小規模オフィスや住宅の省エネの必要性が高まっている。このため、建物における熱損失が大きい窓の日射遮熱性と日射取得性を高めることにより、冷暖房費負担の軽減やCO2排出量の大幅な削減に大きな効果が期待されており、エコガラスに対する補助金事業も実施されている。一方、既存住宅の多くは単板ガラスが使用されており、エコガラスへの交換は高コスト、施工負荷、廃棄負荷をともなう。また、エコガラスや高性能近赤外吸収または反射材料は、ガラス表面コーティングにより暑熱時の近赤外域の日射遮蔽性は高められるが、遠赤外域の放射も含めた寒冷時の日射取得性が問題となる。そのため、スマートウィンドウ(調光ガラス)を利用して単板ガラスのまま、暑熱時の日射遮熱性と寒冷時の日射取得性を同時に付加し、軽量かつ低コストで施工負荷が少ない窓材開発が望まれている。

 

二酸化バナジウム(VO2)は温度変化による結晶相転移に伴い、可視光透過率を下げることなく、近赤外域の光学特性の急激な変化を可逆的に低温透明状態から高温不透明状態へ移行し自動的に太陽熱流束を調整できる。そのため、「サーモクロミックスマートウィンドウ」として期待されている1)。筆者らは、「有機金属分解法(MOD法)によるVO2薄膜を利用したサーモクロミックガラス」の先行研究において、大気圧下の水素添加窒素ガス雰囲気中500 ℃以下で焼成することにより、化学量論的組成のVO2薄膜を耐熱温度の低いガラス基板へ低温成膜することに成功した2)。さらに、カチオン元素であるNb添加により、日射透過率変化と可視光透過率を保ちつつ、相転移温度を44 ℃以下に低温化した。本研究の目的は、「省エネ・低コストサーモクロミックガラス」の実用化に向けた有機金属分解法(MOD法)による二酸化バナジウム(VO2)薄膜を応用した極薄フレキシブルフィルムを開発することである。

REASON課題実施の根拠

1.実験方法

図1に成膜工程を示す。極薄ガラス基板10×10×0.1 mm)(G-Leaf)にZrO2 CSD溶液を滴下し、スピンコーティングにて塗布してN2雰囲気中(1 atm) 600 ℃ZrO2薄膜 (20~30 nm) を形成した。VO2成膜には、V2O5 CSD溶液にNb2O5
CSD
溶液を0~4 mol% 添加したものを使用した。この溶液を滴下しスピンコーティング後、120 ℃2 min乾燥、4%H2添加N2雰囲気中 (1 atm) 300 ℃15 min仮焼成を行った。その後、500 ℃15 min本焼成を行い、ZrO2バッファ層上にNb添加VO2薄膜を成膜した。   

2に表面保護膜として近赤外透過PETフィルム装着した写真と構造図を示す。評価は、ZrO2バッファ層を形成したNb添加VO2薄膜を用いた

2.評価方法

膜試料は、X線回折装置(XRD)およびX線光電子分光装置(XPS)を使用し、結晶性および結晶組成を評価・分析し、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて表面モホロジーと面粗さを測定した。光学特性は、可視・赤外分光光度計を用い、可視・近赤外域の透過率を透明ヒートステージにより温度精度0.1℃以下で測定した

【研究成果と考察】

1.    
XRDによる結晶構造解析

3G-LeafZrO2薄膜を形成して成膜したNb添加VO2薄膜のGIXRD
(Grazing incidence X-ray diffraction
微小角入射測定 ) パターンを示す。0 ~ 4 mol% Nb添加薄膜はすべてにおいてVO2 011, 211 が主要ピークとして検出され、単一組成のVO2多結晶薄膜の成長が確認された

2.AFMによる表面モホロジー2.

図4 (a)(b)Nb添加VO2薄膜のAFM による2次元および3次元画像を示す。測定は3 × 3 μm2サイズで実施した。測定結果から全薄膜で多孔質ではあるが、微小結晶粒が均一に成長していることがわかる。表1AFM測定による平均粒子径、粒子面積率、平均面粗さの計測結果を示す。平均結晶粒径は、58 ~ 45 nmとなることがわかる。しかしながら、粒子面積率は,61 ~ 68%であったことから、空隙が結晶粒間に存在しナノポーラス構造が形成されたと考えられる。平均面粗さは、2.1 nm以下でNb添加試料では添加濃度が多くなると小さくなり,平坦化された

3.1.     Nb添加VO2薄膜のサーモクロミック特性

  図50 ~ 4 mol% Nb添加VO2薄膜の相転移前後における透過スペクトルを示す。測定温度は、相転移前30 ℃から相転移後100 ℃まで加熱して5 ℃毎に測定した

  図6Nb 0 ~ 4 mol%添加VO2薄膜の波長1600 nmにおける転移温度前後での透過率変化を示す。無添加VO2薄膜は,82 ℃以上の転移温度(透過率が変化する相転移上限から下限の中心部温度)を示すが、Nbを添加した場合,Vへの置換効果により1, 2, 3, 4 mol%と添加濃度が増加すると71℃以下となり,低温側にシフトすることがわかる

 

 

7Nb添加VO2薄膜における添加濃度毎の可視光透過率 (100℃での380780 nmにおける平均透過率) 近赤外最大調光率
(100 ℃
30 ℃の最大透過率差) を示す。可視光透過率は55%以上、 近赤外最大調光率は,40%以上、相転移温度は、47℃以下に低温化することができた。

 

6 相転移による透過率変化

7 相転移による透過率変化

1 MOD法によるVO₂成膜プロセス

 G-Leaf (100 µm), ZrO2(30 nm), VO2(70 nm), PET (50 µm)

 

2 極薄サーモクロミックフィルム

3 4% H2添加N2雰囲気500℃G-Leafに成膜したNb添加VO2薄膜のXRDパターン(a) 0 mol% (b) 1 mol% (c) 2 mol% (d) 3 mol% (e) 4mol% 

4 4% H2添加N2雰囲気で極薄ガラス基板に500℃で成膜したVO2薄膜のAFM観察

AFMによる表面モホロジー計測結果

 

Nb添加濃度(mol%)

0

1

2

3

4

平均粒径(nm)

58

45

49

45

45

粒子面積率(%)

68

61

65

62

62

平均面粗さ(nm)

1.8

2.1

1.6

1.7

1.3

5 相転移による透過率変化

EFFECT期待効果

期待される研究成果

極薄ガラス基板上にZrO2バッファ層を形成したNb添加VO2薄膜し、結晶性の良好な均一薄膜を成長することができた。サーモクロミック特性では、可視光透明性、近赤外最大調光率、相転移温度は良好な値を示した。今後は、カチオン元素であるTaを不純物に添加し、相転移温度の低温化を図る予定である。

【参考文献】

1) 和田英男:MOD法によるナノポーラスVO2薄膜を用いた赤外線スマートウィンドウ,NEW GLASS 38 (3) pp26 ~ 28 (2023)

 

2) 和田英男,扶川泰斗,廣芝伸哉,小池一歩,河原正美 MOD法によるガラス基板上へのVO2薄膜の低温成膜,材料73 (2) pp172 ~ 177 (2024)

期待される知財の成果

1.  論文および解説記事(技術情報誌等)1

「住環境を改善する極薄フレキシブルVO2 フィルムの開発」

和田 英男,桑山 智大,廣芝 伸哉,小池 一歩,河原 正美

日本赤外線学会誌 35 (1) (2025.8) 掲載予定

2.  学会発表(4件)

  MOD法によりガラス基板上へ成膜したVO2薄膜のZrO2バッファ層を

用いた可視光透明性向上効果」

桑山智大,廣芝伸哉,小池一歩,和田英男,扶川泰斗

令和6年度 電気学会基礎材料共通部門大会 (2024.9.3)

   MOD法によるVO2極薄フレキシブルサーモクロミックフィルムの開発」

桑山智大,廣芝伸哉,小池一歩,和田英男

33 日本赤外線学会 研究発表会 (2024.10.10)

  「住環境を改善するサーモクロミック薄層フィルム」

和田英男 応用物理学会関西支部2024年度 2回講演会 (2024.11.6)

  「住環境を改善する省エネ・低コストサーモクロミックフィルム」

和田英男 22 赤外放射応用関連学会 (2025.1.31)

   MOD法による極薄フレキシブルガラスへのVO2薄膜成長と特性評価」

桑山智大,廣芝伸哉,小池一歩,和田英男,河原 正美

 

        72回応用物理学会春季学術講演会 (2025.3.14)

CONTACT

大阪工業大学 研究支援社会連携推進課

大阪市旭区大宮5丁目16-1 (大阪工業大学8号館4階)
MAIL. OIT.Kenkyu@josho.ac.jp
TEL. 06-6954-4140
FAX. 06-6954-4066

技術相談申し込みはこちら
Back To Top
a

Display your work in a bold & confident manner. Sometimes it’s easy for your creativity to stand out from the crowd.

Social