1.実験方法
図1に成膜工程を示す。極薄ガラス基板(10×10×0.1 mm)(G-Leaf)にZrO2 CSD溶液を滴下し、スピンコーティングにて塗布してN2雰囲気中(1 atm) 600 ℃でZrO2薄膜 (20~30 nm) を形成した。VO2成膜には、V2O5 CSD溶液にNb2O5
CSD溶液を0~4 mol% 添加したものを使用した。この溶液を滴下しスピンコーティング後、120 ℃で2 min乾燥、4%H2添加N2雰囲気中 (1 atm) 300 ℃で15 min仮焼成を行った。その後、500 ℃で15 min本焼成を行い、ZrO2バッファ層上にNb添加VO2薄膜を成膜した。
図2に表面保護膜として近赤外透過PETフィルム装着した写真と構造図を示す。評価は、ZrO2バッファ層を形成したNb添加VO2薄膜を用いた
2.評価方法
成膜試料は、X線回折装置(XRD)およびX線光電子分光装置(XPS)を使用し、結晶性および結晶組成を評価・分析し、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて表面モホロジーと面粗さを測定した。光学特性は、可視・赤外分光光度計を用い、可視・近赤外域の透過率を透明ヒートステージにより温度精度0.1℃以下で測定した。
【研究成果と考察】
1.
XRDによる結晶構造解析
図3にG-LeafにZrO2薄膜を形成して成膜したNb添加VO2薄膜のGIXRD
(Grazing incidence X-ray diffraction: 微小角入射測定 ) パターンを示す。0 ~ 4 mol% Nb添加薄膜はすべてにおいてVO2 011, 211 が主要ピークとして検出され、単一組成のVO2多結晶薄膜の成長が確認された
2.AFMによる表面モホロジー2.
図4 (a)、(b)にNb添加VO2薄膜のAFM による2次元および3次元画像を示す。測定は3 × 3 μm2サイズで実施した。測定結果から全薄膜で多孔質ではあるが、微小結晶粒が均一に成長していることがわかる。表1にAFM測定による平均粒子径、粒子面積率、平均面粗さの計測結果を示す。平均結晶粒径は、58 ~ 45 nmとなることがわかる。しかしながら、粒子面積率は,61 ~ 68%であったことから、空隙が結晶粒間に存在しナノポーラス構造が形成されたと考えられる。平均面粗さは、2.1 nm以下でNb添加試料では添加濃度が多くなると小さくなり,平坦化された。
3.1. Nb添加VO2薄膜のサーモクロミック特性
図5に0 ~ 4 mol% Nb添加VO2薄膜の相転移前後における透過スペクトルを示す。測定温度は、相転移前30 ℃から相転移後100 ℃まで加熱して5 ℃毎に測定した。
図6にNb 0 ~ 4 mol%添加VO2薄膜の波長1600 nmにおける転移温度前後での透過率変化を示す。無添加VO2薄膜は,82 ℃以上の転移温度(透過率が変化する相転移上限から下限の中心部温度)を示すが、Nbを添加した場合,Vへの置換効果により1, 2, 3, 4 mol%と添加濃度が増加すると71℃以下となり,低温側にシフトすることがわかる。
図7にNb添加VO2薄膜における添加濃度毎の可視光透過率 (100℃での380~780 nmにおける平均透過率) 、近赤外最大調光率
(100 ℃と30 ℃の最大透過率差) を示す。可視光透過率は55%以上、 近赤外最大調光率は,40%以上、相転移温度は、47℃以下に低温化することができた。