RESEARCH TITLE 【2024年度研究PJ】筋組織欠損を再生および再建するための足場材料の開発

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RESEARCHER研究者リスト

※2024年度当時の所属で表示しています

研究代表者工学部 生命工学科藤里 俊哉 教授

研究分担者

工学部

生命工学科

 外波 弘之 准教授

外部協力者

岡山大学

医学部整形外科学教室

藤原 智洋 准教授

外部協力者

大阪成蹊短大

澤田 和也 教授

OVERVIEW研究課題の概要

我が国では悪性骨・軟部腫瘍(骨肉腫など)切除による骨・軟部組織の欠損が年間約3 千人に上る。若年層の患者さんが多く、その切除では周囲の正常組織ごと包むように摘出(広範切除術)するが、その結果、骨軟部組織の欠損による重篤な機能損失に、生涯に渡って苦しむことになる。また、交通事故などの外傷による骨・軟部組織の欠損も年間約1~2 千人に上る。米国では、年間15 万件の開放骨折のうち、大部分は軟部組織の喪失を伴い、重度の開放脛骨骨折の約6割は重大な筋肉損傷を伴うとされる[参考文献1]。

現在、腫瘍切除や外傷によって欠損した組織に対する治療として、人工臓器による置換や臓器・組織移植が行われる。例えば骨欠損に対しては、人工骨の使用や骨セメントを用いた段階的治療法が確立されている。また、皮膚などに対しては、人工真皮や培養表皮、陰圧閉鎖療法などが確立されている。しかし、骨格筋を含む大きな軟部組織欠損に対しては、まだ十分な解決法が見出されていない。特に、骨格筋に対しては人工筋肉はもとより、組織移植においても我が国では組織バンクは存在せず、基本的に自家組織による再建が主となっている。

近年、iPS 細胞などの幹細胞移植治療を中心とした再生医療分野が目覚ましい発展を遂げている。しかし、骨格筋の再生医療は他の臓器・組織と比較すると停滞しているのが現状である。組織欠損が大きくなりやすい骨格筋などの軟部組織では、再生の足場となる材料が鍵を握っており、幹細胞のみの移植を行っても再生を促進させる効果は非常に弱い。現在、足場材料としてはコラーゲンなどの生体高分子、ポリ乳酸などの生体吸収性合成高分子、そして細胞を除去した脱細胞化組織などが研究されている。骨格筋の再生は、骨格筋自身ではなく、その周囲に存

在する筋衛星細胞(筋芽細胞)が分化・増殖することによって達成される。

って、筋芽細胞を移植するにしても、適切な足場環境が用意されなければ適切な骨格筋が再生できないことになる[参考文献1,2]。

我々は、生体の三次元構造を担保した脱細胞化組織(将来はブタ由来を想定)、ならびにコラーゲンなどのタンパク素材をスポンジ構造に加工した多孔質組織を、軟部組織欠損の足場材料として利用する研究を進めている。本年度は脱細胞化組織を用いた足場について、ラット移植実

験の結果を報告する。

REASON課題実施の根拠

8 週齢の雄ラットを、脱細胞化組織足場の作製と移植に使用した。前脛骨筋(TA)をラットから採取し、まず、種々の濃度のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液に浸漬することで脱細胞化し、脱細胞化条件を確定した。次に、脱細胞化組織をTA 筋欠損のラットモデルに移植し、

所定期間経過後、組織学的に評価するとともに、電気刺激を与えて機能回復を評価した。

図1.0.1%SDS への1 週間の浸漬による脱細胞化結果

図2.収縮性タンパク質の減少と細胞外マトリックスの保存

図3.残存核DNA 量と力学特性の保存

図4.移植後の機能回復

EFFECT期待効果

結論

TA 筋を種々の濃度(0.1%、0.5%、0.8%)のSDS で1〜7 日間脱細胞化処理した。その結果、

0.1%SDS への1 週間の浸漬によって(図1)、筋線維構造やコラーゲンⅠおよびⅢ、ラミニン

およびフィブロネクチンなどの細胞外マトリックス成分が破壊されることなく、核DNA は

50ng/mg 以下となり、アクチンやミオシン重鎖などの収縮性タンパク質が減少した(図2,3)。

この脱細胞化組織足場をTA 筋欠損部に移植したところ、移植後6 週間でミオフィラメント構

成タンパク質であるアクチンの再生を伴う再細胞化が観察された。さらに、電気刺激の結果、

移植後12 週で、正常な脛骨筋前部筋よりもさらに強い筋収縮性が認められ、足関節の完全背

屈が可能であった(図4)。

投稿済みの論文

・論文数:1(リバイス中)

1. Functional limb reconstruction using the decellularized skeletal muscles. Bone and Joint

Research

・学会発表予定:6

1. Fujisato T, Sasaki K, Nakamura T. Contractility and myokine secretion of tissueengineered

skeletal muscle by electrical stimulation. 7th TERMIS World Congress. June

25-8, 2024. Seattle, USA.

2. Sai M, Fujisato T. Encapsulated tissue-engineered skeletal muscle to collect and

concentrate the secreted myokine. 7th TERMIS World Congress. June 25-8, 2024.

Seattle, USA.

3. Iwai T, Nakamura T, Fujisato T. Muscle atrophy model using three-dimensional cultured

skeletal muscle. 7th TERMIS World Congress. June 25-8, 2024. Seattle, USA.

4. 福岡史朗,藤原智洋,澤田和也,上原健敬,依光正則,尾崎敏文,藤里俊哉.軟部組織再建

への応用を目指した脱細胞化骨格筋の作製法の確立.第39 回日本整形外科学会基礎学術集

会.2024 年10 月17 日~18 日.東京.

5. 岩田眞季,藤里俊哉,澤田和也.動物性タンパク質を基材とした細胞培養用スキャフォール

ドの開発.2024 年度生体医歯工学共同研究拠点成果報告会.2025 年3 月3 日.横浜.


【結論】

生体内で機能的な四肢再建が可能な骨格筋の脱細胞化手技を確立した。これらの知見は、大幅

な欠損を引き起こす軟部組織欠損に対する再生医療の開発を加速させる可能性がある。来年度

以降は、脱細胞化組織移植を中・大動物への移行を目指すとともに、コラーゲンスポンジの活

用についても検討する予定である。

【参考文献】

[1] Langridge B, Griffin M, Butler PE. Regenerative medicine for skeletal muscle loss: a

review of current tissue engineering approaches. J Mater Sci Mater Med. 2021; 32(1):

15. doi: 10.1007/s10856-020-06476-5.

[2] Liu J, Saul D, Böker KO, Ernst J, Lehman W, Schilling AF. Current Methods for Skeletal

Muscle Tissue Repair and Regeneration. Biomed Res Int. 2018; 1984879. doi:

10.1155/2018/1984879.

CONTACT

大阪工業大学 研究支援社会連携推進課

大阪市旭区大宮5丁目16-1 (大阪工業大学8号館4階)
MAIL. OIT.Kenkyu@josho.ac.jp
TEL. 06-6954-4140
FAX. 06-6954-4066

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