錯体1の電気化学特性をサイクリックボルタンメトリーにより評価したところ、水溶液で可
逆な酸化還元応答を示した。一方、錯体2 は, 2 電子・2 プロトンが同時に移動するプロトン共役電子移動を示し、その酸化還元電はpH に強く依存した。この酸化還元電位の pH 依存性は既報の類似錯体と同様の振る舞いであった。しかしながら、掃引を重ねていくと、錯体2 由来の酸化還元応答が減少し、錯体1 由来の酸化還元応答が増加していった。この変化は、酸化反応を駆動力とした構造変化を意味すする。興味深いことに、この酸化還元を駆動力とした構造変化は強いpH 依存性を示した。pH6 においてはその速度定数が一桁上がる一方、pH 8 では速度定数が一桁減少した。また、この電気化学的な構造変化と光反応による構造変化は可逆的に観測された(図3)。錯体1 の溶液に光を照射すると、0.5 V に錯体2 由来の酸化波が観測され(図3B)、定電位電解をおこなうと
0.5 V の酸化波は消失した(図3C)。この変化は繰り返し観測され(図3D,E)、本錯体が複数の刺激に応答する分子スイッチとしてふるまうことが実験的に示された。