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研究テーマ
IT・IoT・AI・ロボティクス
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情報センター

ハイフレックス形式による社会人向けAI人材育成訓練プログラム

情報センター

越智 講師

本内容は、2020年度秋に実施した、対面とオンラインを併用したハイフレックス形式による、社会人向けAI人材訓練プログラム(厚生労働省・一般社団法人CSAJ共同事業)の概要である。 共同研究者:館野浩司(大阪工業大学, 同志社大学他),宮崎龍二(広島国際大学),鈴木大助(北陸大学),出木原裕順(広島修道大学),尾崎拓郎(大阪教育大学)

1. 概要

2018年より2年間,一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)主催の「次世代AI人材育成訓練プログラム事業」(4)において,AIやIoT,仮想化といった分野を担当した.この事業においては,各分野の学習時間は12時間であり,また対面講座を前提としていた.AIや仮想化といった分野を学ぶために,高スペックのPC(特にAIにおいてはGPU搭載のPC)を必要とするなど,環境の制約があった.筆者らは本事業を通じ,これらの分野を学習する社会人向けフレームワークを構築・提唱してきた.その後,特にAIの重要性はますます高まっているため,さらに2020年9月から11月にかけて合計124時間のAI人材育成訓練プログラムが企画され,筆者らがカリキュラム構築から講座実施まで担当することとなった.

この講座は,1) クラウド環境であるGoogle Colaboratoryを使用し,主催者側や受講者側で使用するPCによらず,ほぼ同一の環境でカリキュラムを進められる,2) 幅広い内容のカリキュラムを講義形式・ハンズオン形式で124時間かけて学修することで,AIの基本,特性を理解し,既存のライブラリ等をうまく組み合わせて新しいサービスやビジネス創出の手助けになる,3) ハイフレックス形式によって物理的制約に縛られない学習が可能,という3点が特徴である.

2. 実施講座の期間と内容

この講座は,当初2020年6月から8月までを予定していた.しかし,新型コロナウイルスによる同年4月の緊急事態宣言の発令もあり,スケジュール変更を余儀なくされた.その結果,2020年9月1日にオリエンテーション,実際のスケジュールは9月11日開始,11月20日終了に変更された.また,会場は当初より東京と大阪の2箇所に設置し,そこに受講者が通うという形を想定していたが,これもコロナ禍によって,講師や受講者ともに希望すればZoomによるオンライン参加も可能とした.この対面・オンラインを併用したハイフレックス形式(8)の講義・演習は9月11日から14回,午前10時から午後5時まで実施した.

筆者は本講座の講師も担当したが,やはりコロナ禍の影響により,東京や大阪に出向くことが難しい場合もあった.共同担当講師のうち,比較的会場近くに居住していた筆者が大阪会場に対面参加し,講義や質問対応を担当した.他のメンバーはオンラインで参加した.また,東京会場では,会場担当企業を通じて,サブ講師を派遣してもらい,同じく質問対応にあたった.

対面参加者は,新型コロナウイルスのクラスタ発生を防ぐため,東京・大阪の両会場で次の感染対策を徹底した.

 

 

  1. 入室時に赤外線体温計による検温を実施,口頭で体調確認を行い記録する.
  2. 入退室の度に,両手を消毒する.
  3. 教室内では講師・受講者ともにマスクを着用する.
  4. 1時間程度で休憩を挟み,教室内の換気を行う.
  5. 講師と会場担当者の間でマイクを使用する場合もマイクを使い分けるか,消毒する.

 

講座内容は次の表の通りである.

3. ハイフレックス形式による講座実施の詳細

次図に講座の運用概要を示す.本講座は,参加者やメインの講師ともに対面・オンラインという選択肢があることが特徴であり,同時に課題点でもある.そのため,可能な限りシステムをネットワーク上に置き,どこからでも参加可能とした.また,これらの運用のため,次の4つのネットワークツールを用いた.

  • Moodle:毎回のスライドデータ,演習データ,振り返りの小テストやアンケートに利用.掲示板経由で,全員に次回の予定や補足事項を連絡.
  • Zoom:講義・演習の様子を配信.また配信の様子はクラウド録画し,復習用動画として後日公開.
  • Teams:講師と受講者間での質疑や,受講者間の交流の場として使用.
  • Slack:講義中,また講義外でも講師間での連絡ツールとして使用.

講師が対面で実施する場合

まず講師が会場において講義・演習を実施する場合,次の大阪会場の例のように,中央スクリーンにスライドを提示して説明する.そのスライドをZoomの画面共有により,東京会場やオンライン参加者にも流す.もし見づらい場合は,会場の参加者もオンライン参加者同様にZoomに参加してもよいとした.

参加者からの質問に対して,大阪会場からであれば講師はその場で対応可能であり,東京会場からの場合は,そこで待機しているサブ講師が対応することもできるし,Zoom経由で直接大阪会場の講師が対応することも可能である.その会場の様子は,図2の左側モニタに映し出されており,大阪会場から東京会場の様子をうかがうことが可能であり,東京会場からも同様である.これは,カメラを接続したPCをもう1台用意し,別のZoom会議室を使用している.

講師がオンラインで実施する場合

次に、講師がオンラインの場合,自宅や大学などからZoomを使用し,スライドを画面共有して講義・演習を行う.両会場にはスライドが,講師の身振り手振りとともに配信される.

受講者と講師とのコミュニケーション

Teamsを使用したことはすでに述べたが,本講座は演習に入ると,Google Colaboratory上でPythonコードを大量に書くことになる.その際,Pythonコードの誤りや,エラーメッセージなどに対して受講生が対処できない場合,講師に質問することになる.大阪会場で担当講師が直接説明している場合は,受講生のところに行ってデバッグが可能であるが,東京会場での複雑なバグや,オンライン参加者は直接質問ができない.そこで,TeamsにPythonコードやGoogle Colaboratoryのスクリーンショットを貼り付けるなどによって,質問を可能とした.また,この方法なら,そのまま質疑のログが残るため,他に同様のバグで困っている受講者にとっても,FAQの役割を果たす.その他,画像判定や自然言語処理での感情判定などにおいて,自由に演習を実施してもらい,その結果をTeamsに貼り付けることで,お互いの結果を容易に見ることができたため,受講者間で大いに盛り上がった.

講師間のコミュニケーション

Teamsとは別に,講師のみが参加するSlackを別に立て,講座中,また講座の時間以外でも常にSlackで情報交換を行った.

 このSlackを通じて,大阪会場に常駐している越智が,オンラインの講師に対して「まだ全員が追いついていないので,再度解説を」「ネットワークの状態が悪いのか,声が聞き取りづらい」「全員理解できているようだ」など,会場の様子を伝えることが可能で,また東京会場からも同様の様子が伝わってくるため,オンライン参加の講師も,会場との連携が容易になった.

4. 受講アンケートの結果と考察

本講座では,受講者の満足度や理解度を測るために,何度かアンケートを実施したが,このうち最終課題に関するもの,また総合アンケートについてここで取り上げる.総合アンケート2種類と最終課題に関するアンケートを紹介する.総合アンケート①では,「ソリューションのアイデアをビジネスとして具体化するためのAIの技術を知ることで,AIで出来ること出来ないことを理解する.」について質問し,また総合アンケート②では,「AIに関するソリューションビジネス」で指導力を発揮し,プロジェクト・チーム等においてリーダー的立場から指示が出せるようになるようなるためにAIの仕組みや手法を理解する.」について質問した. また,最終課題について「これまでの学習内容を総括し,自らの力でプロダクト製作をできたか.」と質問した.

以上の結果から,受講者の総合的な自己評価は高めで,この講座は成功したと評価して良い.しかし,一方で毎回の単元では,Python基礎,ニューラルネットワーク基礎,ニューラルネットワーク分析・分類,ニューラルネットワーク分析・生成,などにおいて,同様のアンケート結果では「どちらかといえば理解できなかった」が20%を超えることもあった.これらの内容で共通している点は,PythonのリストやNumPy形式,データフレームである.Pythonでは他言語と比較してデータ操作が容易に可能だが,リストとNumPy形式の違いなど,Python未経験者にはやや理解しづらい点がある.浅い理解のままでも,AI自体はライブラリによって開発可能なため,最終評価は高めとなったと考えられるが,数値処理,データ分析において継続的な学習が必要ではないか.また,そもそもの受講条件としてPython経験者に限る,あらかじめデータフレームに関するテストを実施する,などを課す案も考えられる.

5. まとめ

筆者は2018年,2019年に実施した専用PCを必要とし,対面参加を基本とする講座から,コロナ禍が原因という点もあったが,対面参加でもオンライン参加でも可能とした,ハイフレックス型のAI人材育成訓練プログラムを実施した.その結果,参加者からは一定の満足度が得られ,担当講師のうち1人しか会場にいないにも関わらず,TeamsやSlackといったコミュニケーションツールを駆使して円滑に進めることができた.このように2020年はリアルタイム型オンライプログラムを開催したが,このコンテンツや経験を活かし,2021年はオンデマンド型オンライン研修,あるいはリアルタイム型とオンデマンド型を混在させたブレンド型オンライン研修講座を企画中である.

今後の計画として,コロナ禍の中,在宅ワーク,大学のオンライン授業など,従来にはない働き方,授業方法が浸透しつつあり,社会人のためのさらにフレキシブルで柔軟なオンライン方式の構築を目指している.

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