スケジュール変更を考慮した数理モデル

情報科学部

ネットワークデザイン学科

システム情報学研究室

杉川 講師

システム開発や建設業などのプロジェクトにおいて,スケジュール作成時点では,わからない不確定な事象によってスケジュールの変更を余儀なくされることがある.さらに,昨今の社会では即応性が求められるため,十分に吟味されないままスケジュールを作成し後で変更することもあります.本研究は,それらのスケジュール立案後の変更を考慮したスケジューリングモデルのための基本的な考え方,分類,数理モデルを提案します.本モデルによりスケジュールの変更をふまえた新しいスケジュールを作成すること,新しい解法を提案することが可能になります.

1.はじめに

近年,消費者ニーズの多様化,迅速な納期回答の要求などにともない,生産スケジューリングの果たす役割はますます重要となってきている.とくに日々の生産プロセスにおいては,計画段階で立案した当初のスケジュールどおりに進捗することは少なく,特急オーダー(ジョブ)や納期変更,さらには生産設備のトラブルといった外乱に対して,即応的かつ柔軟に対応することが必要となる.
このような状況下でのスケジューリングはオンラインスケジューリングと呼ばれる.代表的なオンラインスケジューリングの方式にリアクティブスケジューリングがあり,これまでに様々なアプローチでその有効性が示されている.

しかしながら,リアクティブ・スケジューリングの研究は,限定的あるいは個別な状況の下でスケジュール生成についての手続き的な話題がほとんどであり,より汎用的な研究が少ない[1].少数ではあるが汎用的な研究では,リアクティブスケジューリングなどのオンラインスケジューリングの枠組みの一例としてVieiraの枠組み[2] がある.以下の図にその枠組みを記載する.この枠組みは問題を整理しただけであり,形式的な記述がない.
そのため,本研究では,リアクティブ・スケジューリングに対する形式モデルの構築の一環として,リアクティブスケジューリングの統合的なモデルを提案するための基本的な考え方,分類,数理モデルを提案する.

2. リアクティブ・スケジューリング

機械故障や新規ジョブの到着など計画段階ではわからなかった事象(以下,不確定事象)により当初のスケジュール通り生産を実施することが困難になる.このような事象に対していくつかのアプローチがある.

一つは事前に不確定事象を考慮するアプローチでプロアクティブ・スケジューリングである.二つめのアプローチは生産実施段階でスケジュールを変更するアプローチであるリアクティブ・スケジューリングである.スケジュールを作成せずに,ルールだけをもち仕事を割り付けのみを行うアプローチであるリアルタイムスケジューリングもあるが,結果的にスケジュールを作成しているとみなすことができ,2 つ目のアプローチの特異形としてみなすこともできる.

事象の発生間隔,その対処にかかる時間の情報をある程度わかる場合は事前にそのような事象に対応するプロアクティブ・スケジューリングが有効である.しかしながら,事象に対する情報が事前にわからないときは事後に対応するしかなくなり,リアクティブ・スケジューリングで対応することとなる.そのため,リアクティブ・スケジューリングは,より実用的なスケジューリング方策であるといえる.

リアクティブ・スケジューリングの目的は円滑に効率よく生産システムを運用することにある.そのため評価は従来のスケジューリング問題の枠組みで用いられる評価関数だけではなく,生産システムを安定して運用するための評価が必要である.本研究ではそれをスケジューリングの回数とする.実際の生産現場では工程での作業の混乱,製品の移動にかかるコストなどがあるため,極力スケジューリングを行うのを避けたい.

ここで従来よりあるスケジューリングの評価関数をf1 とし,スケジューリング回数をf2 とする.すなわち,リアクティブ・スケジューリングの評価関数f は,f1,f2,および重みパラメータw1,w2 を用いて,

f = w1f1(c) + w2f2(y) (w1;w2 > 0) (1)

で表すこととする.ただし,c は完了時間, y はスケジューリング回数を表す.

3.新しい分類わけ

リアクティブ・スケジューリングは不確定な事象に対応するためある時刻でスケジュールを変更する. ここではある時刻における状態のことをスナップショットX(t) 呼ぶことにする.このスナップショットにおけるスケジューリング手法をリアクティブ・スケジューリング手法とよぶ.リアクティブ・スケジューリングは大きく分けて二つのことをスナップショットにおいて決定する必要があると考える.

(I) タイミング決定問題

(II) スケジュール生成問題

  • ここではスナップショットX(t) は,次の基本要素に基づいて構成されるものとする.
  • J (t):時刻t までに到着したジョブと未着手のジョブの集合
  • J C(t): 時刻t で処理が完了したジョブと着手したジョブの集合
  •  M(t) 時刻t におけるジョブj を処理することができる
  • 機械の集合π(ϕ(t)) 時刻t における参照しているスケジュール
  • π(C(ϕ(t))) 時刻t における参照しているスケジュールの実施結果

4. タイミング決定問題

タイミングとは時刻t においてスケジューリングを行うのかどうかを判断する問題である.そのため状況判断問題とも言いかえることもできる.ここでスケジュール変更の回数をNSとしてs 回目に作成されたスケジュールをπs(s = 1,..,NS)とする.ある時刻t おいて参照しているスケジュールの番号をϕ(t) とする.そのため参照しているスケジュールはπϕ(t) となり,スケジュールの立案した時点をπ (s) とするとある時刻tに参照しているスケジュールの作成時刻はπ (ϕ(t))(t > π (ϕ(t))となる.
時刻t において現時点で参照中のスケジュールϕ(t) の評価を行うためには現在に状況X(t) が必要となる.評価関数をg とするとg(π(ϕ(t),X(t))) と表現することができる.しかし,πϕ(t) を現在の状態X(t) で評価すること非常に難しい.πϕ(t)は状況X(π(ϕ(t))) の時点で作成されたスケジュールのため,現在の状況X(t) において評価すると実行不可能になっている可能性や割り当てされていない仕事(作業)が存在することがある,そのため未割り当ての仕事や故障のため割り当て不可能となった仕事をどのように扱うのかが重要である.具体的には未割り当て,割り当て不可能の仕事に対して

  1. スケジューリングを行う.
  2. スケジューリングを行わない.

の二つの評価が考えられる.形式的に記述すると,時刻t でのスケジューリングの実施判断を以下のように考える.

ϵt ={1; 実施する, 0; 実施しない}

ここで新しく作成したスケジュールをf(π(ϕ(t)+1)) とする.タイミング決定問題の評価関数は以下のようになる

g(X(t))(1 – ϵ(t)) +g(π(ϕ(t)+1),X(t),w2)ϵt (3)

5. スケジュール生成問題

スナップショットにおけるタイミング決定問題はある時刻におけるスケジュールの生成問題となる.基本的には従来のスケジューリング問題と変わりない.スケジュール生成問題の評価関数は従来からあるスケジューリングの評価関数である.そのため全体評価と同じf1 を使用することが可能である.あえて現時点で評価することを明示的に示すためにX(t) を追加する.

f2(π(ϕ(t)+1),X(t)) (4)

また,現在使用しているスケジュールと新しいスケジュールとの差を評価関数として取り入れることもでき,これによりスケジュール修正と再スケジュールどちらの考えも踏まえた目的関数とすることができる.またこの評価関数は以下のように記述することができる.

f2(π(ϕ(t)+1), π(ϕ(t)),X(t)) (5)

リアルタイムスケジューリングなどは(5) 式で表現することも可能であり,最適性を犠牲にしていることがわかる.

6. 統合化モデル

タイミング決定問題とスケジュール生成問題の統合化モデルを目指す.すなわち,現時点でスケジューリングを行う必要があるのかないのかを判断しながら,生成するスケジュールを最適化する問題である.評価は,スケジュール生成問題の評価をそのまま使用する.

f2(π(ϕ(t)+1),π(ϕ(t)),X(t)) (6)

新しいスケジュールがコストw2 より改善しなくては,スケジューリングを行う意味がないため以下の式を制約条件として追加する.

f2(π(ϕ(t),X(t))) –  f2(π(ϕ(t)+1),X(t))) > g(w2)  (7)

7. おわりに

本稿では,リアクティブ・スケジュールの形式化に向けて従来研究を形式的に記述するとともに,新たにそれらの統合化した数理モデルを提案した.今後の課題としてはこのモデルに対する計算例を行い,より具体的な有用性を示すことが挙げられる.

参考文献

(1) D. Ouelhadj, S. Petrovic: A survey of dynamic scheduling in manufacturing systems, Journal of Scheduling, Vol. 12, No. 4, pp. 417{431 (2009)
(2) G. E. Vieira, J. W. Herrmann and E. Lin: Rescheduling Manufacturing Systems: A Framework of Strategies, Poli-cies, and Methods, Journal of Scheduling, Vol. 6, No. 1, pp. 39{62 (2003)

論文

「Modeling of Reactive Scheduling Considering Schedule Change Cost」(2019)SugikawaSatoshi『SICE Annual Conference 2019』p.621-622.

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