ものづくり人材育成のための教材開発とその検証 原理・原則に基づいたカイゼン活動による作業者の能力を引き出す現場づくり

工学部

環境工学科

環境ものづくり経営研究室

皆川健多郎 教授

生産性向上はモノづくり現場のみならず、多くの現場における喫緊の課題となっている。かつてはこれらの課題に取り組む人材育成は、小集団活動やOJTも含め活発におこなわれていたが、長引く景気低迷、生産の海外移転などにより、近年ではその取り組みは必ずしも十分とは言えない。特にモノづくり現場では人口減少に伴う人手不足、またその対応としての外国人労働者の受け入れなど、生産性向上への対応は急務といえる。本研究代表者は、これまで1,000回を超える製造現場訪問を通じて、現場での実態を把握するとともに、問題解決のための教材開発ならびに教材を活用したセミナーの実施を進めてきた。さらにここにIoTも融合し、さまざまな現場にて自律的に生産性向上を実現する取り組みの推進と、経営工学(管理技術)の普及を目的としている。

模擬生産ライン

座学で学んだことを現場で実践するためには訓練が必要である。訓練のための教材として、産学連携にて独自に開発したものが模擬生産ラインである。

この教材では、チームでQCDの目標達成のための分析、改善案の検討をおこなう。

それぞれのセルにおける動作改善演習、多工程の場合はラインバランシング、さらには部材供給も含めた研修が可能となっている。

この演習では、「儲かる工場をつくる」という目標も立て、収益の改善についても検討をおこなう。品質、リードタイム、さらに利益を確認しながら、グループで検討をすすめる内容となっている。

模擬生産ライン演習の風景

レゴブロックを活用した教材

模擬生産ラインでの演習は実践的なものであるが、設備の問題からもっと簡便な取り組み機会を検討し、新たに開発したものがレゴ社のレゴブロックを活用した組立演習の教材である。

この教材では、動作分析、ラインバランス分析の2つのテーマの演習を開発している。組立の演習を通じて、レイアウトの見直し、より良い作業性を検討したり、バランス効率を見ながら工程編成や省人化の検討をおこなう。

なお、これらの教材を活用して、関西生産性本部(関西IE協会)、大阪商工会議所、大阪府中小企業団体中央会、大阪府中小企業家同友会など、産業人材育成の研修を多数おこなっている。また、国際協力機構(JICA)、海外産業人材育成協会(AOTS)などより、外国人の訪日研修も多数対応している。これらの取り組みでのフィードバックが教材のブラッシュアップにもつながっている。

教材と標準作業書
動作分析演習の風景
ラインバランス分析演習の風景

IoTを融合させて教材の開発

カイゼン活動では、現状把握、検討、そして改善といった一連のサイクルを回す。その際に最も負荷が生じるのが現状把握である。かつては、ストップウォッチに観測盤を持って、現場の観察といったことが、今日ではビデオ動画やIoTといったセンサー類の活用により、その効率化が進んでいる。

ビデオ分析については、これまで(株)日本生工技研社製の作業分析・作業改善ツール「タイムプリズム」を活用した分析などを実施してきた。またそのツールの開発についても検討をおこなっている。

また、IoTの活用としてはSONY社製のMESHをつかった演習教材の開発を進めている。これらのツールを活用し、カイゼン活動のサイクルを高速化することにより、生産性向上を実現する人材の育成を促進することが目的である。

タイムプリズム操作画面 http://www.jiet.co.jp/
MESHタグと3Dプリンタで作成した治具
サイクルタイムの自動計測システム

企業との連携した取り組み

教材の開発、人材育成のみならず、実際の企業の現場における生産性向上の取り組みも学術指導という形で実施をしている。経営工学的視点より現場に潜むムダを発見するとともに、そのカイゼン案を検討、実施することにより、作業者の能力を引き出す現場づくりの活動を企業の方々と共に検討をさせていただいている。

生産性向上により現場の能力を引き出すことは、稼働率の向上、省人化といった効果があるが、それ以上に雇用の多様化、安定した稼働の確保といった効果は事業継続においても特に有効であると考えられる。このような問題解決にご興味、ご関心をお持ちの方は、ぜひともお気軽にお問い合わせください。

論文

「ものづくり中核人材育成における産学連携事業の取り組み」(2008)本位田光重『IEレビュー』49(1)p.45-50.

「カイゼン人材育成のための教材開発」(2016)皆川健多郎『IEレビュー』57(5)p.53-58.

「運搬、在庫、動作のムダ 工場内のムダを見直し生産性アップ」(2017)皆川健多郎『産学官連携ジャーナル』13(11)p.15-17.

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