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ホーム日常会話における差別の(再)生産について
SDGsの分類
研究テーマ
人文学
学科の分類
工学部総合人間学系教室

日常会話における差別の(再)生産について ヘイトスピーチ(差別的談話)をミクロレベルで考える

工学部

総合人間学系教室

大塚生子 講師

イン/ポライトネスヘイトスピーチ日常会話

「ヘイトスピーチ」という語はこれまで、街宣活動やオンラインの掲示板などで不特定多数の人々に向けて発せられる、特定のアイデンティティを有する人々への差別的言語行動に対して用いられてきた。しかし、偏見や差別が人々の日常会話において談話を通して(再)構築されることを鑑み、本研究では個人間会話というミクロレベルでの差別の実践を問題とする。本研究では実際の会話の談話分析を通し、日常会話における差別は、「差別は悪である」という社会通念・規範よりも、相手との人間関係を良好に保つという相互行為上の規範が優先されるために起こるということを論じた。

研究の背景

ヘイトスピーチに関するこれまでの研究の多くは、主に集団による差別的プロパガンダや、オンライン・コミュニティにおける差別的イデオロギーの扇動的拡散など、社会の特定の集団に対する差別を助長する明示的で意図的な差別的言動を対象に、多くの場合心理学や社会学、法学の分野で行われてきた.他方、我々多くの「普通」の市民は、このような極端な差別的言語行動を「彼岸の火事」と見なし、自分は他者の人権を侵害するヘイトスピーチとは無縁の日常生活を送っていると信じている。

本研究ではヘイトスピーチ研究の射程をミクロレベルに拡張し、我々「普通」の市民の日常会話において「差別」がどのように実践されているのかを、談話分析を通して明らかにする。

個人間会話は差別の「現実」

我々は、上司や同僚、友人、家族との会話はごく「私的」なものであり、そこで特定のアイデンティティを有する集団への偏見や差別を語ることは「ちょっとした悪口」なのであって、自分たちこそが差別を生み出しているとは努々思わない。

しかしvan Dijk (2004: 150)の以下の指摘に見られる通り、我々の世界に対する認識は、差別意識も含め、日々の私的な会話の中で学習されるものである。

Much of what we learn about the world is derived from such everyday conversations with family members、 friends、 and colleagues. The same is true for ethnic prejudices and ideologies.

(van Dijk, 2004: 150)

van Dijk (1992)は人種差別の再生産を、ミクロレベルでの個々の日常的な相互作用、談話、社会認知の「現実」として作られ、集団、地域、組織、国家といった中間レベルおよびマクロレベルでの支配と不平等の構造およびプロセスで実現されるとする。つまり、我々の日常生活における「ちょっとした悪口」こそが、マクロレベルでの差別を再生産し、差別の実践になっていると考えることができるのである。本研究ではその意識を喚起する意図を以って、日常会話を含む「他者に影響を与えうる差別的言語行動」に「ヘイトスピーチ」というレッテルを用いる。

 

「人はなぜヘイトスピーチを行うのか」という問い

van Dijk (2008等)は一般の人々へのインタビュー調査を行い、人びとが人種差別を口にするときに「人種差別否定のストラテジー」を用いることを明らかにした。

 このようなストラテジーにより、人びとは前半の肯定的な部分で「自分は差別を行っていない」と示すことによって、ともすれば「差別主義者」という不名誉な評価を相手から受けることを回避するよう振る舞う。このようなストラテジーを用いる背景には、「差別」が悪であるという社会通念が共有されているという前提がある。

 

しかし本研究で実際に友人間二者会話をポライトネス(Brown and
Levinson, 1987
、以下B&L等)の観点から分析したところ、逆にこのような社会通念があるからこそ、他者への差別が両者の人間関係を強める機能をもっている様子が観察された。

悪が善に変わるとき

日常会話におけるヘイトスピーチを考える際に考慮にいれる必要があるのは、そこが自己呈示(Goffman, 1959)とフェイスワーク(Goffman, 1967)を通した人間関係構築の場であるということである。

  • 相互行為上の要請

相手との円滑な人間関係を維持しようとする場合、フェイス(面子)の互恵的な性質により、互いが互いのフェイスを保つよう振る舞う必要がある。また、立場や考えを共有することで相手との連帯が強まる(ポジティブ・ポライトネス:B&L, 1987)。分析した談話では、会話参加者らが相手の態度を探りつつ相手の発言に同意を繰り返し、互いの差別意識の共通基盤が構築・確認され、強固になっていくと同時に笑いや発話が増えていく様が観察された。

互恵的フェイスワークに基づく「円滑なコミュニケーション」では,「ポライトネス」という会話における規範が「差別をすべきではない」という社会正義よりも強い倫理軸として働いているといえる。我々は相互行為上の要請、ポライトネスの規範のために、差別的談話への参与や相手の差別的発言への同意をせざるを得ない。

  • 話題の特殊性

「差別」は社会規範からの逸脱である。心理学で古くから,自己開示の程度と相手との関係性との関連が指摘されてきた(Altman&Taylor, 1973等)ように、本来ネガティブな評価を受ける可能性の高い社会規範からの逸脱行動を相手に見せるということは、それだけ相手への強い信頼を示していることになる。

 

以上のように、差別という社会悪は、個人間相互行為の観点からみると、両者の人間関係を強める「善」として機能しうるのである。

「人はなぜヘイトスピーチを行うのか」という問いに対し、相互行為分析の観点からは以下のように答えることが可能である。

「より大きな社会的正義・規範よりも、会話における人間関係構築・維持(ポライトネス)の規範を優先し、相互行為の相手との人間関係を円滑に保つことが重視されるからである」

日常に潜む「悪の凡庸さ」

大阪大学文学部文学研究科 人文・社会学横断 若手研究者ワークショップ(2018)

差別に対し、ヘイトスピーチ規制法のような法的アプローチが可能になったことは歓迎すべきである。一方で、かつてホロコーストについてハンナ・アレントが指摘したように、「凡庸な悪」にこそ道徳的責任があることを、我々は日々忘れてはならない。

「真の道徳的な問題が発生したのはナチス党員の行動によってではないということです。いかなる信念もなく、ただ当時の体制に「同調した」だけの人々の行動によって、真の道徳的な問題が発生したことを見逃すべきではないのです」(アレント, 2016: 91)

論文

「日常会話における差別の(再)生産について ―ヘイトスピーチ(差別的談話)をミクロレベルで考える―」(2019)大塚生子『大阪工業大学紀要』64(2)p.37-52.

研究者INFO: 工学部 総合人間学系教室 大塚生子 講師

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小寺 正敏

絶縁物への電子ビーム照射時の無帯電条件

電子ビーム(EB)は原子サイズ程度にまで細く絞れるため、レーザービームより格段に微細な加工が可能で、最先端集積回路製造を含む様々なナノテクノロジーで使用されている。ところが、EB照射される試料が絶縁体の場合、電子電荷の蓄積等で試料が帯電することは避けられず、応用範囲が限られると懸念されてきた。我々はEB照射後の絶縁体表面の電位分布を測定する静電気力顕微鏡(EFM)を開発し、照射条件によって起こる帯電現象がどのような特徴を示しながら変化するかを詳細に調べた。その結果、大量のEB照射を行っても試料が帯電しない条件を発見した。

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