盲導犬とユーザーの快適な歩行の実現に関する研究 盲導犬用ハンドルの形態最適化

ロボティクス&デザイン工学部

空間デザイン学科

構造デザイン研究室

白髪誠一 准教授

共同研究者

赤井
田上貴久美

 建築構造設計において利用される構造解析方法に基づくデザインをプロダクトデザインに応用することについて研究を行っている。  本研究は,プロダクトデザイン研究室(赤井准教授),兵庫盲導犬協会と共同で盲導犬とユーザーの安全で快適な歩行を実現するために,歩行時の盲導犬とユーザーの負荷の定量化を行い,その負荷を軽減するハーネス,盲導犬からの情報をより的確にユーザーに伝達するハーネスの開発を目的にしている。

現状の問題点

 盲導犬を利用する視覚障がい者の歩行時において,盲導犬からの情報を伝達し安全な移動を確保するための重要なツールがハーネスである。
 従来から使用されているハーネスでは,ユーザーは盲導犬の体幹上でハンドルの水平部分を持ち,その位置を維持することで盲導犬から正確な情報が伝達されるが,ユーザーの左腕への負担が大きい。

 そのため,ユーザーが楽な姿勢をとるとハンドルの持手位置がユーザーの体側に寄り,その影響で盲導犬もユーザー側に引寄せられることで盲導犬への負担が大きくなる。

デザインコンセプト

新たな盲導犬用ハンドルの開発にあたり,以下の設計目標を設定した。

  1. ユーザーは自然な姿勢でハンドルを保持できること
  2. 歩行時における盲導犬の両肩への負荷を均等にすること

持手はユーザーの体側に近づけて握りやすい持手形状にすることでユーザーへの負担を軽減することができる。

ハンドル形状が左右非対称になることで,盲導犬への負荷が右側に偏ることが予測された。そこで,ハンドルの右側を円弧状にすることで右側の負荷を軽減し,負荷が左右均等になるよう形態を操作する。

形態最適化

 ハンドルの形状による盲導犬への負荷の状況を把握するために,ハンドルの持手位置に荷重を作用させる応力解析を行った。

 メインアームを直線状にした直線型ハンドルでは,荷重の92%が右側に伝達されることが明らかとなり,盲導犬への負荷が大きく偏っている。

 メインアームを楕円状にした楕円型ハンドルでは,荷重の43%が右側に伝達される結果となった。

 メインアームの形状をパラメータにした形態最適化を行った結果,左右の負荷が均等になる形状を得ることができた。

y字型カーブハンドル

 形態最適化によって得られた形態を基に,盲導犬とユーザーの位置関係の検証,使用性の確認を経て実用可能なハンドルを提案した。

 ”y字型カーブハンドル”は,2016年より兵庫盲導犬協会において実際に使用されている。

盲導犬模型を用いた歩行実験

 ハンドルの形状による盲導犬への負荷の影響を調べるために,盲導犬模型を用いた歩行実験を行った。盲導犬模型は,盲導犬側のハンドル取付位置に荷重計を設置し,実験協力者がハンドルを持ち,手引されて歩行する際の盲導犬への負荷を計測している。

 ハンドルは従来から使用されている従来型,従来型をねじった形状としたねじり型およびy字型ハンドルを用いた。実験協力者は,持手を盲導犬の体幹上に維持することを意識する歩行と意識せずに楽な姿勢での歩行を行った。

実験結果

 実験によって得られた歩行時の負荷の計測値より,歩行時における負荷の左右の偏りを左右バランスとして評価を行った。

 従来型のハンドルでは,持手位置を意識した歩行であっても盲導犬への負荷は左側に偏ることが明らかとなった。楽な姿勢で歩行した場合は,さらに負荷が左側に偏る結果となった。

 y字型ハンドルでは,持手位置を意識しない楽な姿勢で歩行した場合であっても,盲導犬への負荷は概ね左右均等となることが明らかとなった。

まとめ

 盲導犬とユーザーの双方の歩行時における負担を軽減するために,形態最適化の手法を用いてユーザーが楽な姿勢でハンドルを保持した場合でも盲導犬の両肩への負荷が均等になるy字型カーブハンドルをデザインした。

 歩行実験によって,従来型のハンドルに比べてy字型カーブハンドルは歩行時における盲導犬への負荷が均等になることが確認できた。これにより,構造デザインの手法を用いることが,プロダクトデザインにおいても有用であることを示すことができた。

論文

「y字型カーブハンドルを用いた歩行実験」(2020)片岡夏海『日本デザイン学会第67回春季研究発表大会梗概集』p.338-339.

「設計領域を単曲面としたハンドルの形態探査」(2019)井上泰孝『日本デザイン学会第66回春季研究発表大会梗概集』p.58-59.

「BESO法による盲導犬用ハンドルの形態最適化」(2018)井上泰孝『日本デザイン学会第65回春季研究発表大会梗概集』p.76-77.

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