4 授業への応用
下記のような質問を予想させてから、実験を行った(H29年物理基礎30名に対し実施)。
Q1.基本振動における開管中の音圧分布(音の強度)はどのようになるでしょうか(図6の5カ所の測定)。
Q2.2倍振動における開管中の音圧分布はどのようになるでしょうか(図8の5カ所の測定)。
予想を正しく答えられた生徒はほとんどいなかったが、実験後には下記のような生徒の感想があり、気柱の固有振動についての確かな概念を得られていることがわかった。物理の教科書で変位分布(音圧分布)が示されているが、いままで簡単にできる教材が乏しいために、生徒にとって音圧分布を実感することが難しかった。本実験により、正確に音圧分布を目に見える形にすることで、生徒の実感がともなうことがわかった。生徒の感想にもあるように、スピーカの近くが大きいと思っているとおり、音の干渉現象があるとは考えていないが、本実験によりばねのような定常波(本授業の前にばねの定常波を行っている(安達、2016a))が発生していることを理解させることができた。また、従来の測定装置に比べて、コンパクト(スピーカとマイク以外はスマホのみ)で安価(スマホ以外で1000~2000円程度)な装備で実験可能であることから、自宅でいろいろと工夫して実験を行いたいと考える生徒にも有効である。
・スピーカの近くでも真ん中よりも音圧が小さくなっているのが凄い。
・想像以上に難しかったが、目に見えないものをとらえるのは凄かった。
・こういう実験は家でもできそうなので時間があったら試してみたいと思った。
・分かりやすい実験のおかげで固有振動数が何か理解できた。
・音圧をもっとよく知りたいと思った。
・960Hzの方は山が2個になるのは面白かった。
・音圧もばねの定常波と同じで波が2倍、3倍となるとそれに合わせて変動することがわかった。
5 まとめ
アプリ“DiracmaS”を用いることで、気柱共鳴実験へ応用可能なことが明らかとなった。従来に比べ、気柱の固有振動数、管内の音圧分布をコンパクトな実験系で測定することができた。本アプリは気柱共鳴の実験に限らず、音波全般の実験に活用できるため、今後は、モバイル性を生かしたさまざまな実験に活用していく。
本研究はJSPS 科研費 JP17H00166の助成を受けており、本研究を含めたDiracmaシリーズを用いた物理教育の研究で平成29年度東レ理科教育賞を受賞している。
引用文献
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安達 照(2017)「スマホのソフトウェア開発とそれを用いた物理教育」『東レ理科教育賞受賞作品集』6-10:下記のHPにPDFファイルあhttp://www.toray-sf.or.jp/activity/science_edu/sci_001.html(2018年9月26日最終閲覧)
安達 照(2018)「スマートフォンの加速度センサーを用いた水平投射実験」『応用物理教育』第42巻、第1号、57-60.
安達 照(2020)「スマートフォンに接続した超音波センサーを用いた鉄道模型の運動の測定」『物理教育』第 68 巻、 4号、234 – 237.
安達 照(2021)「スマホやセンサーを使った物理実験のオンライン授業への活用 -新しい物理概念構築法(超音波センサー、鉄道模型等を活用した実験例)-」『理科の教育』Vol. 70, No. 828, 6 – 9.
安達 照(2023)「Physics Experiments using an Automatically Controlled Model Train and Mobile Ultrasonic Sensor for a Smartphone」『The Physics Teacher』61 September 321 – 324.
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